(タイトル未定)(2001年度新歓リレー企画)   第5章(5/6)


「ただいま!」
そう叩きつけるよう叫ぶとあわてて台所へと向かった。テーブルの上を見る。
「ない…。」
種がなくなっていた。いや、落ちただけかもしれない。そう思い直して床を探す。
「ない…。」
しばし茫然とし、
「何を探しているのだ。少年よ?」
後ろから声をかけられ思わず振り返るとそこには…顔があった。
「力か?知識か?百万の富か?権力か?いかなる物でもくれてやろう。」
そうマドラスの顔が僕に告げた。
「何でも…。」
「そう、何でも、だ。」
反駁する僕にマドラスの顔は一言々々明瞭に、深く浸透するような声で告げる。彼の声に幻惑されたのだろうか、頭が朦朧とする。ごうごうと血の流れる音が響く。彼の目の奥に青白い炎がちらちらと、それでいて激しく踊っているのが見える。あの瞳は…死だ。
「野心を…」
何故かこう答えていた。
「ならば与えよう!」
彼がそう叫ぶのを聞いた時、僕の深奥で、何かがゆっくりと、だが確実に目覚めた。
──まずは、剣だ。
俺の中で、その何かがもそり、と動いた。
近くの博物館へと足を運ぶ。
   ドシュッ
灼熱感。視界が赤く暗くなる。黒い壁が目の前に広がる。ガツッと衝撃が走り、やがて自分が倒れたことに気づいた。接地面がぬめる。血だ。倒れたまま後方を仰ぎ見る。母親の腹から枝が生えていた。
どろり、どろりと血が流れ出す。立ち上がろうとし、左手がないことに気づく。血はそこから流れて出ていた。母親から生えた枝はさらに追いうちをかけようと触手をのばし…母親の躯がはぜた。あたりに血と肉がとびちり、屍臭が立ち込める。
肉塊にはもはや目もくれず、博物館へと急いだ。
布にくるまれた半月刀がガラスケースに収まっている。右手でガラスを打ち壊し、俺はそれを手に入れた。


第6章へ 総合トップへ 作品展示室トップへ 作者別一覧へ