(タイトル未定)(2001年度新歓リレー企画)   第6章(6/6)


『僕』は見ていることしか出来なかった。『僕』の身体はもう、『僕』だけのものではなくなっていることに気付いたから。

『俺』が刀を掴みし時、『俺』は聞いた。"魅込られしモノ達の喜び"と、"悲しみ"とを。

そいつらは僕に言った。「マドラスに委ねよ」と、そして「"あの女"と滅せよ」と。僕は委ねた身体が、ゆっくりと振り返るのを感じていた。

「──来たな。ロラン」
背後に感じる明確な殺気に対して右手のみで刀を構えつつ振り返る。
刹那──。
正確に顔面目掛けて、信じられない速度で繰り出されたものは枝だ。
それと、これもまた信じられない速度の斬撃で切り飛ばす
立っていたのは博物館の警備員と覚しき服を着た一人の男。だがその身体には、葉脈と呼ぶにふさわしい血管が浮き上がって見える。どうやらすんなり此処に入れたには"あの女"が既に手を下していたらしい。そしてこの男の存在感は──。
「久しいな、"あの時"以来か」僕は、マドラスは皮肉めいた微笑と口の端にのせ、言葉を放つ。
「そう、貴様が、刀に、"邪悪"に魅入られて以来」ロランの意志は答えた。「そして俺は、貴様と討つ」
「無様な」マドラスは言う。「憑かれたのは"奴"の手足になり果てたのはお前だ、ロラン」
返答は、無かった。そしてロランの身体は、白昼夢の如く消失する。
「お前では、我が野心を継ぐに足りぬのだ──、俺がこの刀を手にしてから──」
マドラスは呟いた。瞬間、ロランの手足から伸びた枝が、四方からマドラスを目指す。
「──無様な生き様を貫いてでも、否、貫いてこそ、我が野心は──」
閃いたのは剣閃と、砕けちったガラスケースの破片と。
──勝敗は、決した。

上半身のみ残ったロランを見下ろし、僕は震えていた──。
下半身が吹き飛ばされたロランを見下ろし、マドラスは頷き、言った。
「ロラン、これで俺たちは、一つだ」
刀はまた一つ、意志が宿る、ロランの意志が。

力が動いたのは、次の瞬間だった。身体をとり戻していた僕は、壁にしたたか打ちつけられる。
次に僕の口を使い、言葉を発したのは、僕でも、マドラスでもない、刀に宿る意志どものうちの一つだ。
「"あの女"か!油断したわ!」
再び身体をマドラスが支配する、刀の"力"で止まっていた血が吹き出す。刀を握り直し、弱々しく立ち上がる。
「ロラン、聞いているか」マドラスの声は、未だ力強い。
「一つになった今なら解るだろう、カレヴィアが、我々がカレヴィアと呼んだモノが、何者であるかを」
ああ、ロランは答えた。「俺は理解した、だがな」
ロランは言葉を続ける。
「カレヴィアも、俺達も、所詮は、モンスター怪物ではないのか?」
マドラスは形相の内に笑いを交じえる。刀を構え、辺りへの警戒は弛めることなく言う。それは違うな、と。
「"あの女"の元では、俺たちは意志を保てん、さっきまでの貴様のようにな。だがこちらは自分でいられる、それが理由だ」
ロランは無言で答えた。そのまま数分の時が過ぎた。

「去ったか」意志の一人が言う。
「そのようだ」別の意志が答える。
どうやら"あの女"に自ら戦うだけの力はないらしい。ロランがそうされたように他人を操るのがその能力のようだ。
「我らが大敵、次こそは滅する」意志の言葉をよそに、マドラスは僕に話しかけた。
「どうやら、お前の身体は長くは持たんようだ」
僕は、何も答えられなかった。
「再び新たな身体を求める、そして"意志"どもの言う通り"
あの女"殺す」
「一体、どうして、何の意味があってそんなことすんだよ!」
僕の意に反し、声は上ずっていた。マドラスは笑った。
「意味か、殺らねば消されるからだ、お前も、この私も、そして──」
「そして?」
「いや、なんでもない」マドラスは黙った。
近くに意志を感じた。ロランのようだった。
痛む身体で、ゆっくりと出口を目指す。刀を握りしめたまま。

──俺は生きる、見ていろ、カレヴィア…──


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