ノア帝国物語(B面)

chapter- 1, 2, 3, 4,5

第1章

阿由羅

   1

 始まりは、おそらく一番新しい始まりはこの兄妹の会話から始まる。

「本、だな」
「本、だろうね」
「どうしようか」
「どうしようね」
「初めて見たな」
「初めて見たね」
 彼らの手の中には分厚く、今でいうA4版の紙の束――つまり、本――があった。人類がもはや本という情報形態を失ってから150年ほどがすぎている。今や本は博物館でガラスケース越しにしかほとんど見られない。たかだか10歳と8歳の子供がそれらを直接見ることはまずなかっただろう。それを自宅の、しかも台所の棚で見付けたのだから驚かない方がどうかしている。しかも、彼らは知るはずもなかったが古代地球極東語でこう書かれていた。
――カラオケ リクエストBOOK――
 世の中には知らない方がいいことも多い。
 今は帝国暦18年。ノア帝国が独立を宣言してから18年がたっていた。
 たった18年、後世の歴史家たちはそう言うだろうし、現在の歴史家達も1000年前と18年前の差などほとんどないと言うだろう。
 しかし彼ら兄妹にしてみれば自分たちが生まれるより以前のことである。さらに自分たちの属する社会の体制などよりも明日何をして遊ぶかの方が大切な年でもある。結局彼らは子供らしい発想でその非日常を処分した。
 埋めてしまったのだ。

   2

 次の日には彼ら兄妹の記憶からそのことはきえうせていた。そしてそのことで一番迷惑をこうむったのは彼らの父親であった。

「お前達、本を知らないか」
 次の日の朝、父は兄妹にたずねた。
「知らない。行ってきまーす」
 飛び出してゆく二人。父親の顔色が変わったことを気づきもせず彼らは走り去ってしまった。
(あの本が奴らの手にわたれば……。しかしあの本を解読できるのは私だけのはず。なら誰が? 万が一あの本が土にうめられでもすれば大変なことに)
 懊悩、憔悴、後悔。それらが彼にのしかかる。きつくかんだ唇から血が流れた。
「あなた、大丈夫ですか?」
 見かねて母が声をかけた。
「ああ」
「昨日子供達が庭に何かをうめてましたよ。何か新しい宝物でもみつけたのですかね」
「何? それはどこだ?」
 色めき立つ。
「ほら、あそこです」
 指さす先にはわずかに土の色の変色した土が少しもりあがっていた。
「なんということだ」
 急ぎ掘り返す。そして彼は叫んだ。
「もう手遅れだ」


第2章

椎名流

「諸君、久しぶりの仕事だ」
さほど、大きな声でもないのに部屋にいる全員が一斉に振り向く。その目はいずれも期待に光り輝いている。
「さて、肝心の仕事内容だが。古代空間樹の処分だ。287方向、距離4582。すでに空間の亀裂が発生していることが確認されている。全員、レベル3以上の装備で向かうこと。以上。質問は?」
「ないようだな。AチームはG系列、BチームはF系列の装備でいくこと。Cチームはいつも通り、各自の慣れている装備だ。作戦開始」
隊長の言葉とともにだらけきっていた室内は一瞬にして活気を取り戻す。そして、あっという間に、誰もいなくなった。


「ターゲット発見しました。ロックオンします」
「民間人がいる、反重力弾以外使うな」
「イエッサー」
ふぁいやー、というなんとも軽い声とともに砲弾が撃ち出される。着弾後、空間樹周辺が地面ごと浮上する。
「ほらほら、おっさんそんなとこいると邪魔だって」
さっきの軽い声の持ち主だ。彼に反論させる間も与えずに投げ飛ばし、砲撃エリア内から追い出す。反重力弾の効果中だからできる芸当だ。
「たいちょー、砲撃エリア確保しましたー」
彼女はエリア外に退避しつつ報告した。
「よし、反重力弾もう一発だ。根こそぎやらないと再生するぞ」
反重力弾が撃ち込まれ、地面の浮上速度が速くなる。もうすぐ、根ごと空中に浮かせられるという瞬間、上昇が止まった。根が急速に成長し、地面に何十本と張りつき上昇を食い止めていた。それと同時に根が地面一帯に張り巡らされたのが一目で分かった。
「げっ、たいちょー、もう根こそぎやるっていうのは無理みたいだぜ」
「……そのようだな。仕方がない、やつには元の世界に帰ってもらおう。レベル5以下の装備のものは退避しろ。穴を開ける。レベル6以上のものも吸い込まれないよう注意しろ。ベッキーはシールドを張れ」
「りょーかい」「イエッサー」
「ぶーすたーちぇっく。1・2・3、おーるぐりーん。シールド張ります。半径30、持続時間150」
「そんだけ持てば十分だ。穴を開ける。ブースターチェック。1から10オールグリーン。いくぞ」
空間樹を中心として、別空間につながる穴があく。空間樹はその穴に入っていき。やがて、消えた。
空間樹は帰りたいだけなのだ。自分がもともといたところに。だから、処分できないときはこうやって、こちらの手で送り返す。そのほうが被害が少なくて済むからだ。
「終わったな。やれやれ。古代空間樹がこんなに強いとはな。役に立たないマニュアルだ。建国前のものじゃないのか?マニュアル1回作り直さないといけないな」
彼の考え事など関係ないかのようにベッキーが声をかける。
「たいちょー、焼き肉いこーぜ。焼き肉」
「……そうだな、焼き肉でもいってパーっとするか」
「やっほぅ!隊長のおごりだぁ!!」
「待て待て待て!ベッキーはともかく、何もしてないお前たちになんでおごらなきゃいけないんだ」
「えー、ずりーや。隊長、ベッキーにだけ甘すぎるぜ。たまには俺たちにもおごってくれよ」
「そういうセリフはちゃんと働いてから言え。ベッキーなみにな」
「へぇへぇ、さようですか。隊長けちだからな。牛丼屋で生卵1つすらおごってくれたことないし。」
「けちで結構だよ。お前たちにくれてやる金はないからな。」
焼肉屋に着くまでずっと言い合っていたのは言うまでもない。


「本が……唯一の古代樹が……こんなことになるなんて……」
「おい、おっさん」
突然の声に彼がびくっとして見上げるとベッキーがしゃがみ込んだ彼を見下ろしていた。
「次は……もうちょっと弱いやつにしてくれよな。じゃあな。がんばれよ」
「たいちょー、焼き肉いこーぜ。焼き肉」
文句を言われると思ってた彼はきょとんとして、笑いながら走り去っていく彼女を見ていた。
「がんばれよ、か。……そうだな。まだ、私は研究できる。古代樹の記録を読み取るまでは私は立ち止まるわけには行かない。私は必ず彼らを取り戻す。それにしても、本にカムフラージュしてたことが災いするとはな……。とはいえ、種が芽を出すのは当然といえば当然だ。今度は、樹そのものでいくか……大事なのはコアだけだ……」
ここに一人決意を固める男がいたのを誰も知らない。


次回予告
「神なんてのは存在しねぇんだよ。ゴスペルなんてのはまやかしの歌だ。ホントの歌ってのを俺が教えてやるよ。」


第3章

雪村ぴりか

「手伝って欲しい研究がある」
 彼女、レミィ・キャンベラが教官室に呼ばれたのは、後期の授業が始まってすぐの頃だった。……その一言だけの伝言と共に。
 研究って何だろう?
 首を傾げながら、彼女は廊下を歩いていった。学生が行き来する下の階とは違い、教官室が並ぶこの階ではほとんど行き来する人もなく、同じ建物の中とは思えないほど静けさが漂っている。
 とんとん。
「どうぞ」
 中からの応答を確認して、レミィは扉を開けた。
「ネリマ教授、何のご用でしょうか」
 そう言いながら部屋をぐるりと見回す。いつ見ても散らかった教官室の奥の机では、一人の中年の男がモニターに向かっていた。ライズ・ネリマ教授。一見優しく人の良さそうな顔だが、その眼差しや口元は内心の意志の強さを物語っている。代々の学者一家で、本人によると数代前の先祖は人間を古生代のアノマなんとかという動物に改造したことがあるらしい。講義の中で一回はそれを言うのだが、そんな与太話を本気にする学生は一人もいない。もっともレジュメとかマメに作ってくれる上に、何より単位認定が結構甘いので、学生たちには人気のある教授だ。……まあ、それはともかく。
「ああ、キャンベラ君か。……まず、これを見て欲しい」
 彼は机の片隅にあったものを、彼女の前に差し出した。
「本……ですか? これ」
 レミィの表情が変わる。今や本などと言うものは、考古学か歴史学の対象である。ましてやここは帝国大学の工学部空間学科、そんな研究がされる場所ではない。
「ああ。表紙にはこう書いてあるらしい。――カラオケ、リクエストブック、と」
「後半は今の共通語の系列のようですが……前半の『からおけ』って何ですか?」
「古代地球極東地方を発祥とする、娯楽施設の一種らしい。今で言うスティピリの源流らしいな」
「ああ、あれ私も好きですよ。CGとは言え、大観衆を前にして歌う、アイドルになれるようなあの感覚がたまらないんですよね」
「君がアイドルって柄か? ……おっと、そんな話をするためにこの本を持ってきたわけではない。どうやらこの本には、遙か古代の空間樹の種が仕込まれているらしいのだ」
 憮然としかけたレミィは、その言葉に顔色を変えた。
「古代に空間樹ですか?」
「ああ。しかも西暦が使われていた時代のものだ。恐らく現在確認されている中では、唯一の古代空間樹と言えるだろう」
「そんな時代から空間樹ってあったんですか?」
 戸惑いながら訊くレミィ。
「そもそも、空間樹って何だと思う?」
 不意にレミィの顔をじっと見ると、ネリマは言った。
「異空間からの来襲者、ですか?」
「一般にはそう思われているな」
 本を元の場所に戻しながら、ネリマが答える。
「中には、あれは神が人類への警鐘を鳴らしていると言い出す宗教団体まであるな。最近信者が急増しているそうだ。空間樹の間を風が吹き抜けるときに鳴る独特のメロディ、あれがゴスペルだとか言っているようだ」
「まあ、さすがにそこまでは思ってませんが……確かに不気味な存在ですよね」
 頷くレミィ。

 空間樹が現れるようになったのは、異空間と繋がる空間の裂け目が観測されて間もなくのことだった。巨大な裂け目が現れてからはその頻度は増え、統一暦136年にはその被害はピークに達していたという。140年の空間切断技術の開発によりその状況には収拾がつけられたものの、それはノアクルー11人の行方不明事件という悲劇を経てのものだった。
 そして現在も、空間樹は現れ続けている。空間の裂け目が開き空間樹が現れ、そしてそれを切断技術により断ち切る。そのようないたちごっこが続いている。

「私はあの空間樹を、このように考えている。……異空間の住民によって送り込まれている、人為的なものではないかと」
 レミィは数瞬黙りこくった。
「……我々の空間を探査している、とでも言うのですか?」
「ああ」
 半ば冗談めいて呟いた言葉に、ネリマはあっさり頷いた。
「知っての通り、我々は空間切断の技術は開発したが、逆に空間に裂け目を作る方法はまだ開発できていない。一度はノアクルーが開発したらしいが、その技術は行方不明の11人と共に消え去ったままだ。……公式には伏せられていることだがな」
 レミィにとって、そのような話は初耳だった。
「え、じゃあ、たった一人生き残った……名前が出てこないけど、あの人に訊けば?」
「駄目だ。彼はどちらかと言えば政府との交渉担当で、余り詳しいことは知らなかったらしい」
 少し悔しそうな声でネリマが言う。
「しかし……空間樹が、もしかしたらその手がかりになるかも知れない。空間樹のコアの部分、それを解析すれば何かが分かる可能性が高い。……私の見込み違いがあったとしても、少なくとも空間樹は空間を渡る能力を持っている。それを調べる価値はあるだろう。そして、ノアクルーとともに失われた……いわばロストテクノロジー復活させることが出来るかも知れない」
 話を聞きながら、レミィの胸は高鳴っていた。……これはもしかすると、歴史に残る大発見へと繋がる研究かも知れない。何年かかるかは分からないが、これは一生を賭けるに足る研究だと、体全体で悟っていた。
「キャンベラ君、協力してくれないかね?」
 だから、教授がこう言ったとき、彼女は即座に答えていた。
「はい、喜んで。……いや、是非協力させて下さいっ!」

 しかし、二人の研究は、思いがけない形で途中で危機に陥ることになる。
 ネリマ教授の息子と娘……その二人のちょっとしたいたずらにより、空間樹は発芽してしまい、そして貴重な資料は軍の手によって元の空間に帰されてしまった。
 その時までに分かっていたのは、宗教団体がゴスペルと主張しているあの葉音……それが、どうやら空間を渡るための大きな要素となっていることだった。「本当の詩」と二人が仮に呼んでいたそれとの関連を調べようと、教授は本を家に持ち帰ってまで研究していた。……それが、失敗だった。
 去って行く空間樹を見ながら、レミィは人目もはばからず泣き崩れていた。
 その彼女の肩に手をおいて、ネリマは言った。
「まだ、終わったわけではないさ」
 そして後は、自分自身に言い聞かせるようだった。
「ああ。まだ、私は研究できる。古代樹の記録を読み取るまでは私は立ち止まるわけには行かない」
 そう言いながら教授が涙を拭ったのを、レミィは見逃さなかった。
「私は必ず彼らを取り戻す」
 しかし、涙を流しながら……それでも彼は、そう言った。
 レミィはそんな教授を、涙で霞む視界の中でじっと見つめていた。


第4章

鴨打理

 あれから数年の歳月が流れた。当時大学生だったレミィは今は博士過程を終えようとしていた。空間物理学に関してはそこそこ実績も挙げている。もちろん空間樹に関してだ。ネリマ教授も相変わらずだ。そんなある日、教授がレミィを呼び出した。教授の研究室へ行って見ると初老に差し掛かろうかという男性が満面の笑顔でレミィを迎えた。普段見慣れている筈の研究室の雰囲気がいつもと違う。研究室の中には何故か蝋燭と点火装置が置いてある。この科学万能の時代でも宗教は存在するし儀式もある。儀式には蝋燭は今でも欠かせない。
「レミィ君!ついに手に入れたよ。」
「まさか、空間樹の種ですか!?」
「そうだ。この本を見たまえ。」
"コスプレ写真集"と書かれている、派手な装飾の紙で出来た物体を教授が差し出した。紙で出来た"本"はあの時以来だった。また、本にカモフラージュさせたのか、とレミィは思った。
「すぐにでも発芽させよう。前回のように軍に始末されてはかなわないからな。」
「まさか教授。空間樹のコアの謎がとけたのですか?」
「そうだ。やはり空間樹は異世界とのゲートなのだよ。"本当の詩"は空間樹が元の空間と我々の空間をつなぐ為に次元に穴を開けている音だと推測している。この空間樹の性質を利用して何者かが我々と何らかの接触をしようとしているのだ。私たちは新しい友人との正式なファーストコンタクトを行った最初の人類として歴史に名が残るだろう。空間樹は発芽するとすぐに成長する。そして幹がある程度の太さになると上部が崩落して穴が開く。どれくらいの大きさの穴になるかはわからんが、少なくとも人一人が入る程度にはなるだろうね。」
 レミィは胸の高鳴りを覚えながら尋ねた。
「どうやって発芽させるんですか?前のように地中に埋めるんですか?」
 教授はかぶりをふった。
「これは違うよ。空間樹はそれぞれの個体によって発芽条件が異なっている。このタイプはどうやら蝋燭の蝋を垂らせばいいらしい。なかなか宗教的じゃないか。この科学の時代にね。」
 なるほど、とレミィは思った。それであの蝋燭か。そこで、ふと心配が頭をもたげてきた。
「軍はどうします?空間樹が発芽したら確実に発見されてまた始末されてしまいますよ。あの時は事故ということで結局おとがめなかったけど今度見つかったら下手をすれば刑務所行きですよ。私は共犯なんていやですからね。」
 それを聞くと教授は言い切った。
「大丈夫。既成事実を作ってマスコミに流す。実はテレビ局の知り合いに生中継を頼んである。一気にやってしまえば軍もそう簡単には始末できんよ。テレビカメラは回っているよ。すでに中継は始まっている。それに今回は短時間で成長させてしまう方法を開発してあるんだ。発芽させる場所は、うちの大学のグラウンドだ。必要な機材は既にそろっている。さあ、行こうか。」
 教授は歩き始めた。要するに、レミィは思った。私はテレビ番組用に教授の相手役として呼ばれたらしい、と。グラウンドに着くと沢山の機械装置がおいてある。教授は装置を操作しながら機材の一部に向かって何か喋っている。あそこにテレビカメラがあるようだ。

「では、いよいよ、新しい友人とのコンタクトです。」
芝居がかった調子で装置にセットされた本に、火を灯した蝋燭から蝋を垂らした。

みるみるうちに本の形態をしていた物体が木の形態に変化していく。木の幹はどんどん太くなり、根は大地に突き刺さった。教授は離れた所に避難する。幹は太くそして大きくなっていった。そして"本当の詩"が響き始めた。この間にも空間樹は成長を続けている。空間樹は高さ80mほど、幹の直径が20m程度になった時に空間樹の上部が切り取られた様に消えた。上から見ると幹の中央に霞がかった1mくらいの穴が開いてあるのがわかる。

テレビカメラでその様子をモニターしていた教授は歓喜に満ちた顔で叫んだ。
「いよいよ異世界の友人との出会いだ!」

しかし事態は教授の予想外の状況になっていった。空間樹はなおも成長を続け。穴の大きさが20m以上になっても成長をやめなかった。"本当の詩"の音色は次第に大きくなっていった。

突然、空間樹から、何かが高速で飛び出した。その何かは急上昇した後急降下。そして正体不明の怪光線を大学の建物に放った。建物は瞬時に蒸発し、爆発した。爆風を受けて教授とレミィは吹き飛ばされる。その衝撃で二人は気を失った。異世界の戦闘機械は次から次へとゲートを通って浸入してきた。事態を見守って待機していたノア帝国空軍機が遥か上空から迎撃。大学とその周辺は戦場となった。空軍機の防衛にもかかわらず異世界の戦闘機械は大学とその周辺を征圧することに成功した。
教授とレミィはキャンパスから離れた所にあった大学病院に搬送された。全治2ヶ月と診断され、なかば強制的に入院させられた。

異世界からの浸入者が来てから数日後、レミィが教授の病室に行き話をしていると、教授の病室を一人の軍人が面会に訪れた。彼はラインハルトと名乗った。少佐の階級章を付けている。教授の子供達が誤って空間樹を成長させかけた時、処分した部隊の指揮官だった。少佐はレミィと教授に軽く挨拶すると話始めた。

「とんでもないことをしてくれましたね、教授。」
少佐は言った。教授は彼に尋ねた。
「彼らは何者なんです?どうして私達を突然攻撃してきたのですか?」
少佐は静かに答えた。
「教授、彼らは人類の敵なのですよ。何の為にノア帝国を、それもクーデターなどという過激なやりかたで作り上げたとお考えですか?全ては彼らとの戦いのためです。彼ら異世界の生命体は人類が最初に接触した時すでに我々に牙を剥いてきました。ノアクルー達は彼らとの平和的な接触を目的とした調査隊でした。しかし、彼らはノアクルーに対し容赦無く攻撃してきたのです。生き残りがいたのが奇跡ですよ。でも生き残りの口からようやく彼らの意図が判明したのです。彼らは我々の科学文明を破壊しようとしているのです。我々人類に猿に戻れと言っているのです。教授、あなたは異世界からの侵略者を招き入れた張本人として歴史にその名を刻み込むでしょう。」
「そんな…。」
教授は絶句した。そんな教授におかまいなく少佐は続けた。
「空間樹は、彼らが作り出した、我々の世界と彼らの世界を繋ぐゲートなのです。我々が空間樹を彼らの世界に送り返し続けたのはそう言う訳だったのです。本来軍事機密ですがあそこまで大々的にやられてはあなたにも聞く権利くらいあるでしょうね。」
「私達はどうなるのですか?」
レミィは尋ねた。
「当分入院してもらいます。教授のことを人類の裏切り者という声も出てますしね。レミィさん、でしたね。あなたにも世間の風当たりは強いのですよ。」
お大事に、と言って少佐は去って行った。レミィと教授は茫然としていた。

つづく。

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