The Entertainment.

黒川静
「次の候補だ。」
 カシャッという音と共に、白いスクリーンに十五、六歳くらいの少女の姿が映し出される。長い髪をポニーテールにした、瞳の大きな娘だ。
「うーん、まあまあといったところか。」
 暗い部屋の中から男の声が言う。
「元気が良さそうなのはいいんだが……。」
「そう、それはいいんだが、もう少し可愛げのある方がいいだろう?」
「その通りだ。もっと、こう、繊細さのようなものも欲しい。」
 男達が口々に言う。映写機の傍らに立つ男は仲間達の声に大きく頷いた。
「皆、そう言うと思っていたよ。……次で最後の候補者なんだが、これは凄い。私としては、彼女以外に考えられないのだが、どうだろう。」
 カシャッという音と同時に、男達の口からどよめきがもれた。
「すばらしい……。」
「完璧だ。」
「どうしてこれを最初に見せなかったんだ!」
「決まりだな。」
「彼女なら大丈夫だろう!」
 闇の中で頷き合う男達に、映写機の男は満足げに笑った。
「諸君の同意が得られて何よりだ。それでは、今、計画の全てはこの少女に託された!……もうあまり時間がない。皆、最終調整に入ってくれ!」



「北斗ーっ!早く起きなさい、また遅刻するわよっ!」
 一階から、母の声と朝食の匂いが目覚めたばかりの脳を刺激する。
「うー……、あと五分……。」
 川原北斗はもぞもぞとベッドの中に潜り込んだが、突然がばっと飛び起きた。
「やべぇっ、今日から週番だ!」
 ばたばたと階段を下り、トーストを口に放り込んで、ブレザーに袖を通す。
「アンタまた背伸びたわねぇ。ズボンの丈ぎりぎりじゃない。制服買い換えなきゃならないかしら。」
「伸びてくれなきゃ困るんだよっ!これでもクラスのヤローの中じゃ、低い方だぜ。」
「えぇー。あんまり大きくならないでよ。母さん、自分の息子に見下ろされるのは我慢ならないわ。」
「ムチャクチャ言うなよ。……あれ、親父は?」
「父さんは締め切りが近いから昨晩から書斎にこもったままよ。」
 テーブルの上の雑誌を手に取ると、北斗は母親にひらひらと振って見せた。
「で、これが先週号か。あいかわらずわけわかんねぇ特集組んでるなぁ。」
 『古都大学が産んだ七人の天才』と見出しに書かれた雑誌を、北斗は再びテーブルの上に放った。
「その時話題になってるモン追っかける雑誌なんて企画するから、ネタがないとこういうどうでもいいオッサン達の特集組んだりするハメになるんだぜ?」
「北斗、それ、お父さんの前で言っちゃ駄目よ。もの凄くショック受けるから。」
「……もしかして、言ったのか?」
「えぇ。しばらく落ち込んでたわ。」
 心から父に同情した北斗は時計を見て、叫んだ。
「げっ!こんな事喋ってる場合じゃない!行って来ますーっ!」
 靴をはいて、鞄を抱えて、玄関を飛び出す。学校へ向かういつもの道を、いつものように全力疾走……できなかった。
「何だ、アンタ等は!」
 道の途中で、北斗の行く手をふさぐように二人の男が立ちはだかったのである。
「川原北斗さんだね?我々と一緒に来てもらおう。」
「……急いでるんだ。そこ通してもらえない?」
 北斗はじり、と間合いを詰める。この二人に面識はないが、まともな連中でないことは確かである。しかも、急いで学校へ行かねばならない自分の邪魔をするとは何事か。手加減をしてやる義理はない。北斗はケンカには自信があった。しかし……
「……何っ!」
 突然北斗の背後から手が伸び、口元に布のようなものがあてられる。きつい薬品の匂い。
「ひきょう、だぞ……。」
 一対三で、しかもクロロホルムなんて使うか、普通。北斗は、自分に恨みを抱いていそうな人間を頭の中でリストアップしながら意識を失った。



「う……。」
 細く目を開けると、周囲の眩しさに目眩がして、反射的に目を閉じた。まぶた越しでもわかる。どうやらやたらと明るい場所にいるようだ。
「気がついたかね?」
 北斗はもやのかかったような意識をはっきりさせようと首を振った。と、腕に奇妙な圧迫感を感じる。ゆっくりと目を開けると、北斗は絶叫した。
「なっ、何だよこれっ!」
 北斗は椅子に縛り付けられていた。怒りにまかせて椅子をがたがたいわせてもいっこうにロープは緩まない。
「おいっ!ふざけんな、これほどけ……」
 人の気配がする方に向かってわめいた北斗は、次の瞬間、絶句した。明るさに慣れた北斗の目に映ったものは、異様な格好の七人の男達だった。七色の白衣という矛盾した言い方しか形容のしようがない奇妙な上着を、一人一色ずつそれぞれが着用している。赤から順番に一列に並んだその色彩はいわゆるレインボーカラー。
「テメー等、一体何なんだよ!俺なんか誘拐しても金になんねぇぞ、この変態集団!」
 やり場のない怒りと何とも言えない虚脱感に襲われながら、北斗は居並ぶ七人の中年にくってかかった。
「元気もいいし、度胸もあるようだな。」
「うん、この勝ち気さはやはり理想的だ。」
「少々言葉遣いが荒すぎるんじゃないか?」
「そうだなぁ。もう少し可愛らしく……」
「何の話してんだよっ!」
 北斗は見えない会話を続ける七人に怒鳴った。しかし、七人の顔を見て、はた、と思い当たるものがあった。
「……もしかして、アンタ等、『古都大学が産んだ七人の天才』か?」
 今朝見た、父の雑誌に載っていた写真と目の前の七人の顔はものの見事にそっくりである。
「どういうつもりだ!説明しろよ!」
 七人は一瞬顔を見合わせたが、すぐに赤い白衣(のようなもの)を着た男が前に進み出た。
「説明しよう。君には重大な任務がある。君は、選ばれたんだ。」
「悪いけど、俺、宗教には興味な……」
「宗教ではない。いいから、黙って聞き賜え。……君が知っての通り、我々七人はあらゆる分野で人類の知識の最先端にいる者達だ。それぞれが、医学、工学、化学、社会学、文学、法学、天文学に秀でている。さらには……」
 赤のセリフを次いで、橙の白衣が言う。
「我々にはそれぞれの下で働く強力なブレーン達もいる。全員、共通の目的の下、その英知を結集させている。専門とするところの異なる我々がどうしてこのような堅い結束で結ばれているのか、知りたくはないかね?」
 北斗はそんなことどうだって良かったが、この手のタイプは気が済むまで喋らせるのが一番面倒がないと思い、頷いておいた。黄が満足そうな顔で話し出した。
「我々七人は共通の学舎で学問を修めた。そして、そこでそれぞれと運命の出会いを果たし、共通の目的を掲げるに至った。我々を結束させたもの、その名は……」
 北斗は息をのんだ。これだけあらゆる意味で危険な奴等が一同に会するなんて、ろくでもないことに違いない。黄は誇らしげに笑うと自信たっぷりに叫んだ。
「その名はっ!ズバリ『美少女変身もの愛好会』だっ!」
「……。」
 北斗は我が耳を疑った。最早どこにツッコミを入れて良いのかわからない。
「どうした、あまりに高尚なので驚いたか?」
 北斗は黄にうろんげな視線を向けた。
「何だよ、その、『美少女なんとか』って。」
「何?知らないのか、『美少女変身もの』を!アニメというメディアを利用した日本が世界に誇る文化の一つだ。たとえば、『魔法の天使ク◯ーミ◯マ◯』とか、『美少女戦士◯ーラー○ーン』とか、『新白雪姫伝説プ○ー○ィア』とか……。」
 北斗は頭を抱えたい気分だった。母がアニメマニアな為、全ての作品に聞き覚えがある自分も嫌だった。
「イカレた天才なら世界征服とか、国家転覆とか、あるいは核兵器を作って売って一儲けするとか、先進諸国を経済破綻に導いて思いのままに株価を下落させて遊ぶとか、そういうことをするもんだろう!何でそんな普通に困った愛好会やってんだよ!」
「何を言ってるんだ、そんな恐ろしいことできるわけがないだろう。それに、我々には我々なりの美学と夢があるんだ!困った愛好会とは何だ。」
 緑がやれやれというように首を振って黄を見た。
「我々の高尚な美学と夢が世間で理解され難いことは今に始まったことじゃないだろう。それより、話の続きだ、川原北斗さん。我々はその愛好会で語り合ううちに、一つの目標を見いだすようになった。それは……」
「それは?」
 北斗はさっきのやりとりから、どうせくだらないことだろうと予想していた。緑は穏やかな口調で淡々と言った。
「それは、『美少女変身ものの現実世界における完全具現化』だ。」
 北斗は今度こそ開いた口がふさがらなかった。
「できるわけねーだろうがそんなこと。」
 あの手のものはいわゆる魔法やら妖精やら宇宙人やらが存在して初めて成り立つものであることくらい、北斗も知っている。ところが、青は北斗の目の前に進み出ると、ばっと両腕を広げて叫んだ。
「それを可能にするのが我々の夢だったのだよ!その夢の為に、我々は一つのプロジェクトを発足させた。それぞれ担当にわかれて、あらゆる面から『美少女変身もの』の実現に向けて研究を重ねた。」
「でも、アンタ等、ちゃんと仕事してたからあんな雑誌に載ってるんじゃ……。」
「あぁ、あんな研究、片手間に過ぎん。我々の真の目的はただ一つ!」
 片手間で、世界を震撼させるほどの発見をしたり、学会で一目置かれるほどの論文を書いたりできている時点で、彼等の頭脳は本物だが、そのかわり、ヤバさも本物である。
「そして、大体十年くらいで、あらかたの準備は整った。タイトルもコンセプトも全二十六話のシナリオも、全て完璧だ。しかし、ここで問題が起こった。」
「問題?」
思わず聞き返してしまい、自己嫌悪に陥る北斗にはお構いなしで、青は宙を見つめた。
「ああいう作品に必要不可欠なもので、且つ、我々にはどうしようもないものがある。」
 藍が青の隣に並んで、言った。
「それは、『抵抗勢力』だ。平たく言えば、『敵』だ。確かに、初期の『魔女っ娘もの』と呼ばれるジャンルには『敵』はいないケースが多い。しかし、我々の求めているものは、あくまで……」
「あぁもう、わかったよ、とにかくアンタ等の目指すものは美少女が変身して悪と戦うってパターンなんだな。それで?」
 これ以上こいつ等の話を聞いているといつの間にか洗脳されてしまうかもしれないという一抹の不安を感じて北斗は話の先を促した。藍は言った。
「我々は待った。技術が進むたびに他の部分も改良を加えてグレードアップしながら、ひたすら敵となる存在が現れるのを待った。そして、計画発足から苦節二十年、待った甲斐あって、理想の敵が現れたのだ。一年前、宇宙から、謎の電波をキャッチした。どうやら何かの言語のようだったので、そのパターンを何とか解読してみたところ、どこかの銀河系から地球を侵略しに来た連中らしい。」
「おいっ、そんな話ニュースでやってないぞ!」
「当たり前だ。このことが公になったら社会は大混乱だ。そんなことはまぁいいとしても、政府が動き出すと我々の計画に邪魔が入る。こんな絶好のチャンスを潰されちゃたまらん。」
「大丈夫なのかよっ!宇宙人なんだろ?科学力だって向こうが上じゃねぇか!」
「我々を甘く見てもらっては困る。こっちの方が一枚も二枚も上手だ。現に奴等は、宇宙船のあらゆる回線を傍受されていて、全ての作戦がこちらにだだ漏れであることなど知る由もない。科学技術も我々の頭脳の方が遥かに上回っている。せいぜい手の上で踊ってもらおう。」
「……その頭脳をもっと社会に還元しろよ。」
 最後に紫が北斗の真正面に立った。
「敵は決まった。我々は計画の最終段階でしか決めることのできない、最後の大仕事に取りかかった。それは、ヒロインの選出だ。『美少女変身もの』の魅力はヒロインの魅力といっても良い。いくら細部に凝ったところでヒロインに好感が持てなければそれは失敗なのだ。」
 いつの間にか七人は一番初めのように再び一列に並んでいる。紫は、厳かな口調で言った。
「数多の美少女達が候補にあがった。そして、審議に審議を重ね、次第に人数を絞っていき、結果、たった一人の少女がヒロインとして選ばれた。」
 レインボーな七人は、一斉に声を揃えて言った。
「それが、君だ、川原北斗!」
 北斗は、これまでの人生の中で、これ程までに理解に苦しむセリフを聞いたことはなかった。決まった、と余韻に浸る七人に、北斗は感情の欠落した視線を注いだ。
「……あのさ、ヒロインって、女だろ?」
「そうだ。どうした、感動のあまり混乱しているのか?」
「無理もない、このような一大プロジェクトの全てを担って悪と戦うんだ、その感激もひとしおだろう。」
「……いや、そうじゃなくて、俺、男なんだけど?」
 痛いほどの沈黙が流れた。
「え?」
 赤が間抜けな声を発した。
「何を言ってるんだ、そんなに美少女なのに。」
「そうだ、我々の目はごまかせないぞ。」
「理想のヒロインじゃないか。」
「どこをどう見たら男に見えるんだ。」
 口々に言う男達に、北斗は遂にキレた。
「っざけんなよっ!ブレザーにズボンで普通は制服で男だろう!」
 憤りのために文法は滅茶苦茶だが、言いたいことは七人に伝わったようだった。
「……ほ、本当だ。」
「ブレザーに、スカートではない……。」
「そ、そう言われてみれば……。」
「気付かなかった……。」
「顔しか見てなかったから……。」
「テメー等全員大バカだー!」
 北斗の絶叫の残滓がこだまして消えた後には、再び静寂が訪れた。
「困ったことになった、諸君。」
 赤が呟いた。
「計画の仕上げの段階で、こんな大ハプニングが待ち受けていようとは。」
「そうだ、私としたことが、全く予想していなかった展開だ。まさか、川原北斗が男だったなんて……」
「じゃ、俺にはもう用はないな。学校行かせてもらうぜ。ロープほどいてくんない?」
 既に遅刻は決定だが、行かないわけにもいかない。しかし、北斗の目の前で七人は額を寄せあって何やら相談していた。
「諸君、事態は深刻だ。何より、時間がない。」
「しかし、『美少女変身もの』は美少女だから意味があるんだ!」
「君の気持ちはよくわかる。しかし、我々の計画はヒロインが北斗に決まってから、全て北斗仕様にカスタマイズされている。」
「今からデータを書き換えれば……。」
「いや、データの書き換えは間に合っても、第二候補だった少女は今北海道にいる。間に合わない。」
「何言ってるんだ、目を覚ませ!我々の目標は何だ?完璧な『美少女変身もの』をプロデュースすることだ。それが、ヒロインが男?冗談じゃない!」
「目を覚ますのはお前の方だ!このまま手をこまねいていれば、我々の命が危ういんだ!俺だって、俺だって、こんなことになるとは……。」
「馬鹿野郎っ、泣く奴があるかっ!」
「お前だってっ!」
「我々が生きてさえいれば、また計画は立て直せる。今は、涙をのむんだ、みんな。」
 北斗は嫌な予感がした。
「というわけで、緊急避難的に、今日から君は『地球の守護天使・ホーリースター』だっ!」
「ふざけんなよ、センスがないとかそういういうツッコミはこの際おいといて、何で俺が……」
 北斗が抗議の声を上げた、その時だった。ズン、という音と共に地響きが襲った。
「来おったか!」
「計算通りだな。」
「来たって、何が?」
「奴等が最初に攻撃を仕掛けてくる場所がここだということは初めからわかっておったのだよ!大体の時間もな。」
「それなら逃げろよっ!さもなきゃNASAに通報しろよ!」
「何を言う、だからこそここに基地を設置したのだ。さぁ、『地球の守護天使・ホーリースター』第一回の始まりだっ!」
 紫の声に重なって、もの凄い豪音がした。なんと、天井をぶち破って、何か巨大な動物が降ってきた。
「げっ何だこいつはっ!」
 正にオカルト雑誌に出てくるような悪魔の姿がそこにあった。牛のような頭にはねじれた角があり、身体は毛むくじゃらで形こそ人間に似ているが、長い尻尾が生えている。
「北斗、これをっ!」
 橙が何か投げてよこす。北斗の膝の上に落ちたそれは……
「……ペンダントでどうしろと。」
 北斗七星の形をあしらった可愛らしいペンダントが北斗の膝の上で光っている。
「唱えるんだ、『スターライトシャワー・トランスフォーム!』!」
「そんな意味不明なこと口走って何になるんだ!とりあえずロープほどけっ!」
 化け物は、しばらくきょろきょろと辺りを見回していたが、北斗を視界におさめると、ゆっくりと近付いてきた。
「うわぁっ何で俺なんだよー!」
「やっぱり、奴等にも奴等なりの美意識があるんだろう。」
「ほれ、死にたくなかったら唱えろ、『スターライトシャワー・トランスフォーム!』」
「いやだー!」
 しかし、化け物は確実に北斗に迫る。化け物の濁った目の中に自分の姿が映っている。死にたくない。北斗は、ぎりっと奥歯を噛み締めると、叫んだ。ダメで元々。
「ちっくしょーっ!『スターライトシャワー・トランスフォーム!』!」
 突然の閃光。目の前が真っ白になり、奇妙な浮遊感が襲う。自分の身体さえ見えない。どこからともなく音楽のようなものが聞こえたような気がしたが、よくわからない。あまりの眩しさに目を閉じる……
「やったー!成功だぁー!」
 急に感覚が戻ってきた。七人がお互い肩を叩き合って喜んでいる。ロープはいつの間にか切れていて、北斗は椅子の前に立っていた。
「何が成功……って、何じゃこりゃあっ!」
 何気なく、自分の姿に目をやって、北斗は叫んだ。フレアースカート(しかもミニ)の可愛らしいコスチューム。さりげなく露出度の高い格好に頭を抱える。
「おぉ、よく似合ってるよ。」
「さすがはトップレベルのデザイナーだな。」
「あいつは計画発足時から『自分にデザインさせてくれ』と言っていたからなぁ。」
 北斗はこいつ等の仲間だというその偉大なデザイナーの名前が恐ろしくて聞けなかった。そういうことに疎い自分でも知ってるような、超有名デザイナーだったりしたら立ち直れない。
「で、どうすりゃいいんだよ。まさか、変身してそれで終わりってことはないんだろ?」
 目の前で変身されて驚いたのか、動きを止めた化け物を睨みながら、北斗はヤケ気味に言う。
「もちろんだとも。次はこう言うのだ、『母なる大地・アースの守護者、ホーリースターただ今参上ッ♪』。」
「もう嫌だぁぁぁ……」
「言っておくが、この決めゼリフを言わんと戦闘モードに切り替わらないから、武器等は使えない。」
「ほれほれ、地球の平和を乱す宇宙人が再び暴れ出したぞ。」
「言えばいいんだろう、言えばっ!『母なる大地・アースの守護者、ホーリースターただ今参上っ!』」
「違う違う、『ただ今参上ッ♪』だ。『ただ今参上っ!』じゃない。」
「『ただ今参上ッ!』」
「惜しい、もう一声っ!」
「くそーっ!『母なる大地・アースの守護者、ホーリースターただ今参上ッ♪』」
「やればできるじゃないか。」
 北斗が叫ぶと、何の前触れもなく宙に細長いものが現れた。反射的に受け止める。
「それは、『ホーリーバトン』だ。先に小さな飾りが付いてるだろう。それを宇宙人に向けて……」
 と、これまで壁を壊したり、天井を壊したりという破壊行動に走っていた宇宙人が、突然、北斗に向かって走りだした。間一髪でその拳から逃れる。宇宙人が殴った跡にはコンクリートにひびが入っていた。背筋が寒くなる。
「先を向けて、どうするんだ?うわっ!」
 宇宙人は北斗に容赦ない攻撃を仕掛けてくる。何とか避けながら七人の指示をあおぐ。不本意きわまりないが、背に腹は代えられない。
「バトンの先を向けて、叫べ!『グレイトスターエナジー・フラッシュアタック!』」
 北斗は、宇宙人から身をかわしざまに反転すると、びしっとバトンを向けた。
「くらえっ!『グレイトスターエナジー・フラッシュアタック!』」
 もの凄い閃光がバトンの先から放たれる。視界が様々な色で埋め尽くされ、空気がビリビリと震える。金色に輝く飛沫が波のように押し寄せて、引いていく。次の瞬間、宇宙人の姿はなかった。
「おめでとう、北斗!」
「大成功だ!」
「よくやった、本当によくやった。」
 七人の男達が北斗に駆け寄ってきた。
「いやぁ、結構いけるもんだなぁ。」
「うん、最初は男だということに抵抗があったんだが、そのうち、そんなこと忘れていたよ。」
「いやぁ、完璧なヒロインっぷりだ。」
「感動したよ!うん!」
「よし、みんな、今回は色々ハプニングもあったけれど、ヒロインは当初の予定通り、川原北斗ということで良いだろうか。」
「おうっ!」
 勝手に盛り上がる男達に北斗が猛然と抗議した。
「ちょっと待てーっ!俺はやるとは言ってない!今回は命がかかってたからやったけど、誰があんな恥ずかしいマネ……」
「結構ノリノリだったくせに……。」
 呟いた黄の首を絞めにかかる北斗に、赤が笑みを浮かべて言った。
「いいのかね、そんなこと言って。」
「どういう意味だよ?」 
「変身を解く方法、知りたくないのか?それとも、そのまま家に帰るかね?」
「こ、このやろう……。」
「じゃ『地球の守護天使・ホーリースター』第一回『天使誕生』は無事終了ってことで。次回は第二回……」
「だから、やらねーって言ってんだろう!」

 今ここに、一人のヒロインが誕生した。
 地球の平和と
 一部の人間の生き甲斐のために
 戦え!
 地球の守護天使・ホーリースター!


「ちょっと、北斗!父さんの雑誌の今週号、もの凄い売れ行きなのよ!」
「なんでだよっ?雪でも降るんじゃねぇのか?」
「それがねぇ、面白い写真投稿があったのよ。これこれ、『地球侵略を狙う宇宙人と、それに立ち向かう謎の美少女』。」
「あっ、あいつらーっ!」

続く(?!)

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