Fairy tale.

いづみ


「リーテをかえせ、このアクマ!」
 彼が振り返るとそこには、目に涙を滲ませた見知らぬ幼女がいた。
 穏やかな陽光が降り注ぐ日中の路上の一角。近くを歩く幾人かの人々や露天の店主が訝しげな目を向けた中心に、一人の青年男性と一人の幼い女の子が立っていた。
 幼女は丸い頬を紅潮させ、涙の跡の残る目で男性を睨みつけている。一方の青年は明らかに戸惑いの表情で、自分の服の裾を掴んだ幼女を見つめていた。
「かえしてよ。」
 幼女はもう一度訴えて、青年の服を強く引く。
 青年は自分をまじまじと見つめる周囲からの視線を感じつつ、穏やかに幼女に語りかけた。
「…とりあえず、こんな道の真ん中じゃ皆の邪魔になるから、ちょっとそこまで歩こうか。」

「このリンゴを二つ、下さい。」
「まいどあり。」
 青年が熟れたリンゴを両手に持って幼女の元に戻ってくる。木陰に座った幼女は相変わらず警戒するような目を青年に向けていた。
 先ほどの道から歩くことほんのわずか、辛うじて付近の人々の視線を避けられる所まで、何とか青年は幼女を連れて移動した。
 彼にとっては全くの突然の出来事だった。気ままな一人旅の中で通りかかった村。そのまま通り抜けて今日のうちに先の村まで歩こうと思っていた矢先、突然コートに重い感触が生じた。振り返って見てみれば全く見知らぬ幼女が自分のコートを掴んでいる。村の子供らしい、無造作に切りそろえた濃い灰色の髪とごく地味な服。だがその目は明らかに泣き腫らした後のものであり、そして自分を睨みつけての言葉が『リーテを返せ』。
 とりあえず、話だけでも聞いて誤解を解いた上で家まで送らなければいけないと、青年は思った。
 真っ赤なリンゴを目の前に差し出す。
「リンゴ、食べるかい?」
「いらない。しらないひとにもらったものは、たべちゃいけないもん。」
 昼間の陽光はまだ強い。日差しを避けるべく目についた道の脇の木陰に幼女を案内し、逃げないという証拠のために荷物番を頼んで、疑われないように目の前で果物を買ってくる。それでも幼女は青年が差し出したリンゴをあっさりと断った。
「それに、アクマのたべものはどくだから、ぜったいにたべちゃいけないもん。」
 幼女は相変わらずの目で青年を睨みつけている。
 青年は困った顔ながらも何とか微笑みを見せると、屈みこんで再度目の前の幼女に話しかけた。
「悪魔…いったい、どうして僕のことをそう思ったんだい。」
「アクマはからだじゅうまっくろだって、しんかんさんがいってた。」
 口をわずかに尖らせながら幼女が答える。
 青年は改めて自分の格好を確認した。真っ黒な長髪と、同じく黒色のロングコート。おまけに色のくすんだ革の手袋まで着けていては、確かに全身真っ黒と言われてもおかしくはない。
 少し苦い笑いを浮かべつつ、青年は言葉を返した。
「うーん…。でももし僕が人攫いの悪魔だったとしたら、こんなことしないで最初から君を連れ去ったりしているんじゃないかなあ。」
「!」
 その言葉に、何かを思い出したのか突然幼女は顔を上げた。一瞬でその顔が泣きそうなものに歪む。
「やっぱりひとさらいのアクマなんだ!リーテをかえしてようっ!」
 思い切り叫ぶと同時に立ち上がって、目の前で屈む青年のコートの裾を両手で握りしめ引っ張った。
 思いのほか強い力での引っ張りに、青年は前につんのめりそうになるのを何とか堪える。そこには背を曲げ肩を震わせる、幼い女の子がいた。
 慰めるように、穏やかな口調で青年は語りかけた。
「違うよ。僕は悪魔じゃ、ない。」
 途切れ途切れの声を洩らして泣く幼女に、優しく言葉を続ける。
「…リーテって子が、いなくなったんだね。君はその子を探してるんだ。」
 しゃくり上げる音は、まだ止まらない。時々コートを引く力が強くなる。
 青年はその姿を見つめてしばらく考え込んでいたが、やがて、どこかあきらめたような苦笑を浮かべながらこう言った。
「それじゃ、話だけでも聞かせてくれないかな?ひょっとしたら、助けてあげられるかもしれない。」
 泣き声が少しずつ少しずつ小さくなる。やがてそれは聞こえなくなり、止んだ。
 それから唐突にコートを掴んでいた手が離される。うつむいたまま、涙が溢れているのだろうその目を何度かこすって、最後にもう一度だけ鼻をすすって、幼女は顔を上げた。
「ほんとに、ほんとにリーテをかえしてくれる?」
「僕はリーテを攫ってなんかいないから、返せるかは分からないけれど…君がその子を捜すのを、手伝うことならできるよ。」
 相変わらずの、警戒した目。その眼差しで幼女は青年を睨みつけていたが、不意にうつむくと、そのままぺたりとその場に座り込んだ。そして両手で膝を抱えて身を丸める。
 自分から顔を隠すようにうずくまった幼女に対し、青年も、微笑を浮かべるとその隣に腰を下ろした。
 青年は幼女を見つめていたが、幼女は黙ったまま顔を上げることもなくただじっと座り続けている。
 やがて青年が、声はかけずに手にしていたリンゴの一つを幼女の足元に置いた。
 幼女が少しだけ顔を上げる。しかし、それを目にすると黙って首を横に振った。
 青年は一旦困ったように苦笑をしたものの、自分の手にしていたリンゴをおもむろに脇に置くと、幼女の前のリンゴを再度手に取った。
 気づいた幼女が目で追う中、腰から短剣を抜き、その刃を服の裾で拭って、手にしたリンゴを二つに切る。その片割れを差し出して、青年は改めて言った。
「―僕の名前は、フォン・ナシィだ。君の名前は?」
 いつしか顔を上げていた幼女が、思わぬ言葉に驚いたのか目を丸くする。青年は微笑みながら言葉を続けた。
「一緒にリーテを捜すんだから、まずは僕らが仲良くしないとね。」
 青年を見つめていた幼女の視線が、一度リンゴに移り、そして青年に戻る。青年は優しげな微笑を浮かべたまま何も言わずに幼女を見つめていた。
 しばらくそのまま黙り込んでいた幼女の表情が、一瞬決まり悪そうな顔に変わる。しかしそれを隠すかのようにすぐさま両膝の間に顔をうずめると、一言、そっけない口調で答えた。
「…ユマ。ローア・ユマーニ。」
「ユマだね。よろしく。」
 青年はリンゴを差し出した手をそのままにして、言葉を返した。
 幼女は振り向かない。しかし、しばらくすると伏せていた顔がわずかに起き、おずおずと片手が伸びてきた。
 その掌にそっと青年がリンゴを載せる。幼女は一瞬だけ驚いたような目を青年に向けたが、またすぐにうつむき視線を外した。
 頬を赤く染めたその横顔に青年は笑顔を向け、そして自分の手元に視線を戻して握ったリンゴをかじった。小気味良い音が鳴る。
 止まっていた小さな手が動いた。
「…ありがとう。」
 そう呟いて、幼女もリンゴにかじりついた。


 半分のリンゴを食べ終えたユマが、ナシィの問いかけに答える形で語り出したのはこんな話だった。
 …リーテはユマの双子の妹であり、まさに今日この日が、ユマーニとプリーテ二人の七歳の誕生日だった。
 仲良くお昼ご飯を食べた後、二人で、子供だけでは行ってはいけないと言われている森の奥にこっそり遊びに出かけた。
 するとそこで思ってもみなかったものを見つけた。
「すごいのが、あったの。」
「いったい、何を見つけたんだい?」
 ナシィの質問に、それを思い出して少し興奮したのか頬を赤く染めて、一際大きな声でユマが答える。
「あのね、しろいキノコがわになっていたの。まーるくて、こんなにおおきいの!ええと、ようせいの…ようせいの、わっか!」
「―妖精の輪(Fairy Ring)か!」
 両手で頭より一回り大きな円を描いたユマを見て、ナシィはそれが指すものに気づいた。
 『妖精の輪』、それは森の中で円を描いて生えた茸が形作る環。一説には妖精がダンスを踊った跡とされる。―しかしこの輪にちなんで語られる言い伝えは、あともう一つ存在する。
「妖精の輪を見つけて…それで、何があったんだい?」
 ナシィが尋ねると、ユマの表情は曇った。まるで何かを恐れるようなためらいを見せた後、唇を噛み、泣きそうな顔で答える。
「さわっちゃいけないのに、リーテが、あのまんなかをさわったの。」
「妖精の輪の中を、手で触ったんだね。」
「うん。それからなかをほろうとしたから、あたしがやめてっていったの。そしたらやめてくれたけれど、でも、リーテはかえってこなかったの。おやつのじかんになってもいつまでたってももどってこなかったの!」
 妖精の輪にまつわるもう一つの言い伝え。
『妖精の輪の内側に触れると、妖精の国に連れていかれてしまう』
「いいつたえをまもらなかったから、さらわれちゃったの…。」
 …妖精の輪の内に触れたばかりか、その内側を掘り返そうとしたリーテ。ユマが必死になって止めて、内側を掘り返すことは何とかやめさせた。だがそれに怒ったリーテは一人で森の奥へ行ってしまった。一方リーテの行動と反発に怒っていたユマも、そのまま一人で森から帰った。
 そして、おやつの時間までユマは家で待っていたが…リーテは帰ってこなかった。
 リーテが帰ってこないので、母親がユマに探してきなさいと言いつけた。でもリーテは妖精にさらわれたのだから、帰ってこれない。だけど森の奥に内緒で行ったことを言うと、叱られてしまう。だから何も言えなかった。
 秘密を抱えたままユマは家を出た。リーテは妖精にさらわれた。連れて帰るには、自分もリーテのところ、妖精の国に行かなくちゃいけない。…でも、怖い。
 リーテの心配と禁を犯したことの恐れで頭の中が一杯になりながら、森へ向かう道を歩いていた。そうしたら、『ひとさらいのアクマ』が、目の前にいた。
「…妖精の国に連れていかれたんじゃあなかったっけ。」
「リーテはさらわれたんだもん!だから、ひとさらいのアクマならリーテをかえしてくれるとおもったの…。」
 ナシィが問うとユマは必死になってそう答え、目に涙を滲ませた。
 飛躍した論理。だけど、双子の妹がいなくなって、自分だけで探そうとして、彼女が考え出した答え。
 うつむいたままユマが肩を震わせる。
 その頭に、そっと、ナシィの手が置かれた。
「そうなんだ…一人で、頑張ったんだね。」
 しゃくりあげるユマの動きが一瞬止まる。
 それから声を上げて泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい!あたしが、もりにいこうっていったから、リーテが、さらわれちゃったの。あたしがいいつけをまもらなかったから…。」
 震える小さな肩を抱くようにナシィがその手を当てる。
「うん。ちゃんと、謝れたね。」
 ごめんなさい、の言葉を繰り返して泣きじゃくる幼い女の子を隣にして、ナシィは静かにその背中を繰り返し撫でていた。


 森の一角、木々に覆われて日の光が遮られた陰に、確かにそれはあった。
「ここだよ。」
 ユマが指差した先。樹の根元、茶色の枯葉に半ば埋もれながらもその上に突き出すように白い茸が幾本も生えている。
 小ぶりな茸が描いた円の形。ユマとリーテが見つけた、妖精の輪だった。
「ありがとう。…確かに、リーテはここに触れたんだね。」
 ナシィが屈みこみ、中心に手を伸ばす。だがその瞬間隣に立つユマの体が強張ったことに気づき、出した手を空中で止めた。
 辺り一面が舞い落ちた木の葉に覆われている中で、小ぶりな円のほぼ中央、そこだけが明らかに葉が払われ焦茶色の地表が露わになっている。
 恐らくは掘り返そうとして触れたのだろう、細い筋のような跡が四本並んでそこに残っていた。
「ねえ。これから、どうするの?」
 屈みこむナシィの肩をきゅっと掴んで、不安げな声でユマが問いかける。
 ナシィは振り向くと、彼女を安心させるように微笑みかけて答えた。
「そうだね。まずは、きちんとこの辺りを探してみようか。」
 路傍の木陰でユマから一通りの話を聞いた後、ナシィは彼女に言った。まずは実際に森に行って、本当にリーテが妖精の国にさらわれてしまったのかもう一度きちんと探してみようと。
 その言葉に、疑いと、森に戻ることへのかすかな怯えを交えた表情をユマが見せる。ナシィはゆっくりと語りかけた。リーテは妖精の国にさらわれたのかもしれないけれど、ひょっとしたら森の奥にいるのかもしれない。そしてそのどちらだとしても、彼女が帰ってこれずにいるのは確かだ。だから自分たちが彼女を迎えに行かなくてはいけない。
 既に夕方が近づいていた。おやつの時間に一度家に帰り、そこから更にリーテを探しにユマが出かけてきている。急がねば日が落ちてしまい、森から帰ることすらできなくなってしまうだろう。
 そう告げてナシィはじっとユマを見つめた。始めはうつむき目を伏せていたユマだったが、自分の両の手を強く握りしめると、顔を上げ決意の面持ちで確かなうなづきを返した。
 そして二人は森の中、ユマとリーテが見つけた、『妖精の輪』の前へとやってきた。
 肩を掴んで自分を見つめるユマの、その小さな掌を包み込むようにぽんと上に手を置いて、ナシィが言葉を重ねる。
「ユマ。もう一度、ここでリーテと別れた時に、リーテがどっちに行ったのかを説明してくれるかい。」
「うん。」
 ナシィが立ち上がって輪の前から離れると、ユマがその前に立ち大きく身振りを交えながら話し始めた。
 足元の妖精の輪、その前でリーテがしゃがみ込んで掘り返そうとしている。慌てて止めるユマ。腕を掴んで、立ち上がらせる。リーテが不機嫌な顔を見せる。ユマも心配ながら、つい声を荒げて彼女に怒ってしまう。そっぽを向くリーテ。二人のケンカ、言い争い。リーテなんか知らない、そう言って背を向けたユマ。リーテも背中を向けて、一人で森の奥に行ってしまう。
「だまったまま、リーテはあっちにいったの。」
 そう言って最後にユマが指差した先は、妖精の輪を越えて、森の更に奥へと向かっていた。
 ナシィはユマの隣まで歩くと、再度屈みこんだ。低い姿勢から地面を注意深く眺める。
 曲がった草も折られた枝もないが、よく見れば、足で踏みつけたのだろう千切れた枯葉が点々と落ちていた。
「分かった。じゃあリーテを追いかけよう。」
「でも、ようせいの…」
 リーテを探しに行こうとする意志と同時に、言い伝えを強く信じ、またそれ故に今もなお恐れる気持ちが入り混じっているのだろう。迷いに彩られた不安げな表情でユマがナシィの目を見る。
 ナシィはその右手を取ると、両手で包み込んだ。
「大丈夫。リーテはこっちに走っていったんだ、きっとこの先にいるよ。」
 そう告げてユマの手を握ったまま立ち上がる。
 手を引かれ、ユマがナシィを見上げる。
 ナシィは優しく笑いかけると、その手を自分の手とつないでゆっくりと歩き出した。

 一旦駆け出し、しばらく進んで徐々にゆっくりとした歩みになる。時々迷って行きつ戻りつしながらも、小さな足は止まることなく更に奥へと進んでいく。
「ねえ、ほんとうに、こっちにリーテがいるの?」
「そうだよ、ちゃんと足跡が続いてる。ほら。」
「…わかんない。」
 枯葉と大地に残された途切れ途切れの足跡を辿りながら、ナシィとユマは森の奥へと進んでいた。
 遠くから虫の声が響いてくる。だが近づくと消えてまた遠くから聞こえてくる。進むにつれてより人里から離れていっているのだろう、空気が冷めた静かなものへと変わっていく。最初のうちはユマが何度もリーテの名を呼んで、またしきりにナシィにも話しかけていたものの、いつしかこの空気に圧されたのかその言葉は少なくなっていった。
 リーテのことが本当に不安なのだろう、ナシィがつないだ小さな手が時折きゅっと握られる。
 そんな時はナシィの方から、聞いていてわくわくするような、あるいはほっとできるような旅の話をユマに語った。
「そういえば、こんな話があるよ。」
「なあに?」
「…あるところに、とても仲の良い二人の兄弟がいました。」
 短い沈黙を挟んで放たれたナシィの言葉に、ユマがはっと顔を上げて彼を見た。そこには驚きとあたかも叱られるのを恐れているかのような表情があったが、ナシィはにっこりと微笑みだけを返して話を続けた。
「二人はいつも仲良くすごしていましたが、ある日、ふとしたことから大ゲンカをしてしまいました。」
 うつむいたユマからの返事はない。ただナシィと繋ぐその手がかすかに強張った。
「もう夜になって暗くなったのに、なんと弟は村の外への森へと走っていってしまいました。ところがこの森には、黒い魔物が住んでいたのです。さあ大変。」
「…。」
 無言のままだが、話の続きが気になったのだろう、ユマがもう一度ちらりと顔を上げた。
「お兄さんは急いで弟を追いかけました。ところが森の中はもう真っ暗です。探しても探してもなかなか弟は見つかりません。」
「…うん。」
「魔物がいる暗い森の中を、お兄さんは一生懸命走り回りました。」
「うん。」
「すると、とうとう森の奥深くで弟を見つけることができました。―ところがその時。」
 ここで言葉を切ったナシィは、不意に、辺りが前よりも少し静かなことに気づいた。虫の声が少ない。
 穏やかな笑顔から鋭い眼差しへと表情を変えてナシィがその場で足を止める。突然の立ち止まりと沈黙に、ユマが戸惑いと不安の混じった表情を見せてナシィの手を引いた。
「ねえ、それからどう…」
 立て続けに背後で乾いた物音がした。
「危ないっ!」
 咄嗟に、ユマを背後に庇うようにしてナシィが直感的に身を反らせる。
 次の瞬間頬に触れんばかりの至近距離を、唸り声と共に灰色の影が横切った。
 軽い足音を立てて影は枯葉を踏みしめ着地する。
 向き直った灰色の影はその紫の目でナシィらを睨むと、威嚇するように大きな吠え声を上げた。
「きゃ…きゃあっ!」
 遅れて悲鳴が上がる。同時に影は再び大地を蹴った。
「くっ!」
 座り込んだユマに半ば覆い被さるようにして、その跳躍を逃れる。
 姿勢を崩しながらもナシィはすかさず空いた左手で腰の剣を抜いた。振り返り、着地した影の姿を追う。
 そこにいたのは、薄汚れた一匹の灰色狼だった。その目は血走り赤みを帯びた紫色をしており、半開きの口からは泡混じりの白い涎が垂れている。
 相手と目を合わせながら、剣を右手に持ち替えつつナシィは立ち上がった。
「僕の後ろから離れないで。大丈夫、絶対に守るから。」
 背中にいるユマに声をかける。返事はなかったが、コートを引っ張る力が強くなったのと、かすかに震える体が自分の片足に押し付けられたのをナシィは感じた。
 狼は喉から唸り声を出し、ナシィらを見つめていた。
 ナシィは周囲に視線を巡らせた。仲間らしき姿は見当たらない。幸いなことに、襲ってきたのは群れではないようだった。
 左手を後ろを庇うように下げつつ、右手で黒色の直剣をかざす。
 今度は無言で獣は飛びかかった。
「っ!」
 高くはなく、低い跳躍。庇うものがある故に動きを制限されている足元を狙っての噛みつき。
 反射的にナシィは右手の剣を下げて攻撃を受けようとした。
 だが灰色の影はその外側を抜けた。大地を四つ足で蹴りそのまま勢いを上乗せして無防備な背後へと飛びかかる。
 不自然に右前に傾ぎ崩れた姿勢、下げた右手の剣は間に合わない。
 ユマが身を硬く強張らせる。
「―あ、ぐっ…。」
 鈍く、湿った音が響いた。
 続けて洩れた苦痛の声は、ナシィのものだった。
 辛うじて振った左腕は確かに狼の顎を捉えていた。そう、生え並ぶ牙が服ごと皮膚を喰い破り肉を貫いている。
 狼は地面に降り立ち口を開こうとした。だがそれよりも先に、ナシィが腕を大きく振り相手を大地に叩きつけた。
 衝撃が、硬い牙を伝わり腕を襲う。同時に背中から地面に激突し反動で無理やり開かされた狼の口から悲鳴が上がる。
 その胸元を、勢いよく突き立てられた漆黒の刃が完全に貫いた。
 肺を貫かれ濁った鳴き声を最後に響かせて、狼は意思のある動きを止めた。手足が不規則に痙攣し、口から泡立つ赤い血が溢れ出る。
 ナシィはゆっくりと狼の死体から剣を抜き取った。黒色の刃は鮮血に濡れ、暗く赤い反射を見せている。
 同時に左腕に走った痛みに思わず身を強張らせた。剣を置き右手で触れる。
 傷口に、白い塊が突き出しているのが見えた。触れてその正体を確認すると、すぐさま握りしめて歯を食いしばり一気に抜く。
 腕を貫くほどに長く、湾曲した鋭い円柱が姿を見せた。―狼の牙だった。
 前に転がる狼の死体の、力なく開かれた口を見る。そこには犬歯は二本しか残されていなかった。一つはたった今折れたもの、下顎に真新しい白い跡がある。一方その対になる上顎には、恐らくは随分前に失ったのだろう、擦り減って表面が既に丸みを帯びた跡だけが残っていた。
 汚れた刃を軽く拭って鞘に収める。そしてナシィが振り返ると、そこには戦いの途中で振りほどかれてしまったのだろう、一人身を強張らせてうずくまるユマの姿があった。
「ユマ、大丈夫かい!」
 手に握ったままだった血まみれの牙を思わず懐に放り込んで慌ててナシィが駆け寄る。狼の死体が彼女の視界に入らぬようその前に屈みこみ、汚れた手袋を外してからその背中を優しく抱いた。
「怖がらせてごめんね。もう大丈夫だよ。」
「…ほんと?」
「ほんとだよ。安心して。もう、狼もいないから。」
 まだその身を強張らせたまま、恐る恐るだがユマが顔を上げる。
 ナシィは微笑みを見せた。コートが黒いおかげで飛んだはずの返り血もほとんど目立たない。
「ほら、ね。」
 そうナシィが再度呼びかけると、ようやく、ユマの体の震えが治まった。それでもやはり怖かったのだろう、涙の滲んだ目を何度もこすると、それから改めてユマは目の前のナシィの顔をじっと見つめた。
「どうしたの?」
「…ナシィは、だいじょうぶだった?」
「ああ、僕なら大丈夫だよ。」
 そう答えるとナシィは両手を軽く振って見せた。手袋を外したため、赤い血はどこにも見えない。
「でも、さっき、おおかみがかみついてた…。」
「そんなことないよ。」
 不安げなユマに、ナシィはコートの袖を捲り上げ軽く手で払ってから左腕を差し出した。―確かにそこには、傷跡らしきものは何一つ残っていなかった。
「ほら大丈夫。」
「…ほんとだ。」
 ようやく納得したらしく、ユマがほっとした表情を見せた。
 こうして彼女が落ち着いたのが確認できたところで、それまで穏やかな笑みを見せていたナシィがここで真剣な表情になって改めて言った。
「ユマ。もしかしたらこの森には他にも危ない動物とかがいるかもしれない。急いでリーテを追いかけよう。」
「―うん。」
 ナシィの言葉に、ユマもはっとして深くうなづく。
 するとナシィは屈みこんだ姿勢のまま、彼女に背中を向けた。
「じゃあ、背中に乗って。ちゃんと首に手を回して落ちないようにするんだよ。」
 両手を後ろに差し出して、おんぶの姿勢を取る。
 ユマが一瞬見せた複雑な表情は肩越しに見たナシィにも分かったが、結局彼女は素直に背中に上った。
「手を離しちゃだめだよ。」
「うん。」
 言葉に首を振ってうなづいたのを、背中に伝わる動きでナシィは感じ取った。
 再び足跡を追いかけて歩き出す。決して走るほどの速さではないものの、それでもユマの手を引いて並んで歩いていた時よりは確実に速い足取りでナシィは進んだ。
 ユマは何も言わなかった。背中にじっとしがみついたまま一言も言葉を発しない。
 互いに沈黙が続く中で、先に呼びかけたのはナシィだった。
「―そういえば、さっきのお話は覚えてるかな。」
 ユマからの返事はない。ナシィは構わず言葉を続ける。
「仲良しの兄弟がケンカをして、弟が森に行ってしまった話。」
「…うん。」
 今度は間を置いて、小さな返事だけが返ってきた。ほとんどとぎれそうなか細い声。
 ナシィは小さな微笑を口元に浮かべると、ゆっくりと、再び語り始めた。
「そう、お兄さんは一生懸命探して森の奥で弟をようやく見つけ出したんだ。だけどその瞬間。―あの、黒い魔物が現れたんだ。」
 まさにそう話そうとした瞬間、狼が現れたのだ。
「黒い魔物はとても強かった。二人だけでは、戦えるはずもなかった。」
 肩に回されたユマの手に、少しだけ力がこもる。
「だから、お兄さんは弟を逃げさせたんだ。弟だけでも、村に帰れるように。」
「…おにいさんは、どうしたの?」
 語りを切って間を置くと、ユマから先を求める言葉が返ってきた。ナシィは微笑んでまた話し始めた。
「お兄さんは…戦った。習い始めた魔法を使って、一生懸命になって戦った。」
 こくりと、彼女の小さなうなづきが背中から伝わる。
「だけど魔物は強かった。お兄さんの力だけでは、勝てなかった。そして―。」
 ここで再度ナシィが言葉を切る。
「どうしたの?」
「―そして。そこに、村の人たちがやってきたんだ。」
 驚いたのだろう、ユマがかすかに息を飲んだ。
「その先頭にいたのはあの弟だった。急いで村に帰った弟が、助けを呼んできたんだ。」
 更に一拍置いて、ナシィは最後の結末を口にした。
「こうして、村の人たちの助けもあって魔物は追い払われ、兄弟は無事に助かった。めでたし、めでたし。」
「…。」
 ユマはしっかりと背中にしがみついている。何も言わずに、ただ強く体を押し付けている。
 胸元でつながれたその両の掌の上に、ナシィは自分の右手を重ねた。優しく呼びかける。
「きっと、リーテも無事だよ。一緒に助けに行こう。」
「…うん。」
 手の中でユマの両手がぎゅっと結ばれる。
「一度家に戻ったから、僕を呼ぶことができたんだ。…大丈夫。必ず、リーテを見つけられるよ。」
「うん。」
 薄汚れてはいたものの決してその毛は赤く染まってはいなかったあの灰色狼のことを思い出しながら、ナシィは穏やかな声でユマに語りかけた。


 程無くして、木々の数が減り少し開けた空間が現れた。
 日が傾き梢の向こうの空は既に赤い。橙色の光が斜めに降り注ぐ中、二人はその場所にたどり着いた。
 地面には厚く木の葉が降り積もり、その間に疎らに白い茸が生えている。そんな土地の中央で、うずくまり、地面を探す一つの小さな影があった。
「―リーテ!」
 最初に声を上げたのはユマだった。
 驚いたように、小さな影が振り返る。そこにはユマと同じ顔をした、しかしどこかまとう雰囲気の違う幼女が屈んでいた。
 ナシィはすぐに膝をついて腰を落とす。
 その背中から飛び降りて、ユマは探していた妹の元に駆け寄った。
「リーテっ!ごめんね、ごめんね!」
 走りながら涙混じりの声で叫んで、そのまま抱きつく。自分と同じ背の高さの相手の肩に顔をうずめて、ユマは声を上げて泣いた。
「ううん。わたしも、ごめんね…。」
 一拍遅れて、ゆっくりした口調でリーテが返事をする。
 二人の幼子は互いに謝り合った。そしてそこから数歩離れた場所で、ナシィは一人その姿を温かい目で見守っていた。

「どうして、こんなところに独りでいたんだい?」
 ひとしきり謝り合って落ち着いた後、見知らぬ大人に気づいて不安げな顔を見せたリーテにユマがナシィを紹介した。『たすけてくれたおにいさん』、と言って。
 それでも慣れないのかユマの背中に半分隠れるようにしてリーテはナシィを見上げる。ナシィは屈みこんで目線を合わせ、リーテにこんな森の奥まで一人で来た理由を尋ねた。
「…さがしてたの。」
「何を探してたのかな?」
「しろいいし。ここで、みつけたの。…たんじょうびのぷれぜんとだったの。」
 プレゼント。それは、恐らくは今日この日にユマに渡すつもりだった誕生日のプレゼントのことなのだろう。
「そうなんだ。」
 ナシィは辺りを見回した。ここまで歩いてきた道と何の変わりもない森が広がっている。何本かの樹の根元に、白い茸がひょっこりと生えていた。
「でも、ちっともみつからないの。まえは、ここにおちてたのに…。」
 泣きそうな顔でリーテが呟く。ユマが慌ててその頭を撫でてだいじょうぶだよと呼びかけていた。
 悲しげなその顔を見て、ナシィは思わず考え込んだ。ここで拾ったという『白い石』。それを、今日渡すつもりだったのだ。二人で一緒に森に出かけて…。
「―大丈夫、いい方法があるよ。」
 突然ナシィからかけられた言葉に、ユマとリーテは揃って彼の方を振り返った。
 二人の戸惑った表情に対して、ナシィは笑顔を見せて立ち上がる。
「まずは一緒に戻ろうか。もうすぐ、日も暮れちゃうからね。」


 『しろいいし』を見つけられなかったことが気がかりなのだろう、リーテはこの場所から離れることを嫌がるそぶりを見せたが、ナシィは微笑んでもう一度大丈夫だと言った。
「君のプレゼントは、ちゃんと見つかるから。心配しないで。」
 そう告げたナシィの言葉、そしてユマが『ナシィなら、うそはつかないよ』と説得したことで、リーテもようやく戻ることを決めたようだった。
 三人仲良く手を繋いで、来た道を戻っていく。
 そしてナシィは立ち止まった。
「さあ、着いた。」
 そこは、森の一角。あの『妖精の輪』がある場所だった。
「かえるんじゃなかったの?」
 ユマの問いかけにナシィはにっこり笑顔で答える。
「その前に、リーテのプレゼントを見つけてあげないとね。」
 その言葉の意味するところを感じたのだろう、ナシィと目が合ったリーテは神妙な顔でこくりとうなづいた。
 ナシィは二人と繋いでいた両手を離すと、妖精の輪の前まで歩いた。そこで改めて二人の方に向き直ってしゃがみ、視線の高さを合わせる。そして言った。
「最初に。一つ、いいことを教えてあげるよ。妖精がさらうのは子供だけなんだ。」
「そうなの?」
 ユマが目を丸くして驚きの声を上げる。
「そうだよ。だって、さらわれた大人の話は聞いたことがないだろう?」
「…うん。」
 ナシィが尋ね返すと、しばらく考え込んでからユマもうなづいた。
 妖精の輪の言い伝えは地方によって微妙に異なっている。確かに地域によっては、さらわれるのは子供だけという形で伝えられていた。取り替え子(チェンジリング)の話と混同されたという説もあるのだが、無論そんな余計なことはナシィは口にはしない。
「さあ、こっちにおいで。」
 ナシィが手招きをする。ユマとリーテは、ゆっくりと彼の元に歩いていった。
 妖精の輪を囲むようにして三人が並ぶ。
 二組の小さな瞳が見つめる中、ナシィはおもむろに、その輪の中心に手を突き立てた。
「ナシィ、だいじょうぶなの?」
 話を聞いてもまだ不安だったのだろう、ユマがナシィに尋ねる。一方のリーテは何も言わずに静かにその光景を見つめていた。
「大丈夫だよ。それに、悪い妖精が攫いに来たって、僕はそう簡単に攫われたりなんかしないさ。」
 笑ってナシィはそう答えると、地面に刺した手に力を込めて、土を掘り返し始めた。
 一掻き、二掻き、三掻き。
 焦茶色の土が小さな山を作ったところで、地面の中から別の色が現れた。
「…これだね。」
 周囲の土を払い、それを取り出す。
 ナシィの手には小さな布の塊が載せられていた。
 それを、ナシィは立っているリーテの前に差し出した。
「はい。これが、君のプレゼントなんだね。」
「えっ!」
 その光景を眺めていたユマが驚きの声を上げる。
「…うん。」
 リーテは小さな声で返事をしうなづくと、布の包みを両手で受け取った。
 ナシィが微笑み無言で見守る中、リーテはゆっくりと包みを解いていく。
 幾重にも重ねられた布の端をめくってそこに現れたのは…『しろいいし』だった。
「はい。おたんじょうびおめでとう、ユマ。」
 掌に収まるほどの、艶のある、真っ白な長細い石。それをそっとリーテは差し出した。
「あ、ありがとう…。」
 思ってもみなかったのだろう。頬を赤らめて、ユマもそれを受け取る。
 指でつまんで、もう真っ赤な夕日の光に照らしながら、喜びに溢れた顔で彼女はそれを見つめた。
 そして不意に我に返ると、すぐさまリーテの方を振り返って言った。
「ありがとう、それからごめんねリーテ。」
「うん、いいよ。」
 にっこりとリーテも笑う。
 ユマは頬を赤らめたまま、更に付け加えた。
「あのね。あたしも、ぷれぜんと、よういしたの。おうちにあるから、かえったらわたすね。」
「うん。ありがとう。」
 お互いに、笑顔を見せ合う。
 そして二人は揃って振り返った。そこには微笑みながらこの光景を静かに見守るナシィがいた。
「ありがとう、ナシィ。…アクマだなんていって、ごめんね。」
 ぺこりと頭を下げたユマのその頭を、ナシィは優しく撫でる。
「いいよ。リーテと仲直りできて、良かったね。」
「うん!」
 顔を上げたユマが、満面の笑みで答えた。
「…ありがとう。」
 続けて、リーテも、真っ直ぐナシィを見つめてお礼の言葉を述べる。
「どういたしまして。」
 ナシィが微笑みを返すと、リーテもにっこりと嬉しそうに笑った。

「ばいばーい!」
「ばいばーい。」
 手を振りながら、二つの影は走っていく。
「ばいばい。」
 しゃがんだ姿勢のまま同じく笑顔で手を振り返して、ナシィは家へと駆け足で帰っていくユマとリーテの姿を見送った。
 並んだ小さな影が木々の向こう、夕暮れの暗がりに紛れて見えなくなる。
 二人の姿が完全に消えたところで、ナシィは手を下ろすとその場で立ち上がった。
 そして振り返って、すぐ後ろに広がる『妖精の輪』を見下ろす。
 ナシィはおもむろに手を懐に入れると、一つの物を取り出した。
 黒く汚れた湾曲した塊。それは、あの狼の折れた牙だった。
 更に提げた荷物から水筒と端切れを取り出す。布を湿らせるとナシィは牙の汚れを丁寧に拭い始めた。
 繰り返しこするにつれて、汚れが落ちていく。
 やがて牙は元の色を取り戻した。―艶のある、白色。
「白い石、か……牙だなんて、分からないよな。」
 それはリーテが取り出したプレゼントとほぼ同じ形をしていた。掌に乗るほどの細長い石。
 改めてナシィは足元の妖精の輪を見つめた。
 森で撃退した狼。その牙の一つは、既に失われていた。
 リーテが『しろいいし』を見つけた草地。その付近には、今『妖精の輪』を形作るのと同じ、白い小さな茸が生えていた。
 …もしかしたら。リーテはかつて森の奥で、雨に打たれ汚れの落ちた狼の牙を見つけたのではないだろうか。そして彼女はそれをきれいな石だと思い、拾った。その前後に付近の土にも触れていたのだろう。それからここまで戻って、その牙を木の根元に大事に埋めておくことにした。菌糸の着いた手で土を掘り返して。
 ナシィは明るい声で呟いた。
「妖精の輪を作ったのは、だーれだ?」
 …とはいえこんな話は、あくまで『もしかしたら』にすぎない。
 それに、『妖精の輪』はやっぱり妖精のものにしておくのが一番だろう。
 一人微笑むとナシィは、磨いた牙を再び懐へとしまった。そして足元の輪に背を向ける。
 空にはもう星が見えている。すっかり遅くなってしまった、この分なら今夜はここの村に一泊してまた明日の朝に出発した方がよいだろう。
 そう考えをまとめると、ナシィもまた森の出口に向かって歩き出した。
 その背中で、虫の声が一つ鈴(リン)と高く響いた。


                        〈end.〉

















〈毎度恒例本誌には載らない秘密のあとがきのたぐいのおまけ〉

 というわけで、短編〈Fairy tale.〉はこれにて終了です。ここまでの読了まことにありがとうございました。多謝。
 改めまして自己紹介を。ええ、この文章はサークルの冊子には掲載されてないのでこんなところを読むのはあらかた知人のような気がしなくもないんですがやっぱり名乗りは必要だと思うんですの、はい。というわけでおいらはいづみ、ファンタジー小説のしがない愛好家にして最近は単なるダメダメな廃人でございます(え)。どうぞ今後ともよろしゅう。
 それでは今回の小説ができるまで、またの名をどーしていづみが廃人と化しているのかを簡単にご説明いたしましょう(笑)。…いや単純に卒業研究が忙しいだけなんですが(爆)。だって平日十三時間ラボに拘束(よく遅刻してるが)、土曜日も何だかんだで十時間近くは拘束(少ない日もあるけどね)、日曜だけが貴重な休み(=家事労働と休息で消費)というわけで。さて、どこに執筆時間が存在するのでしょうか?……いや分かってるよっ、ホントに書く気があるならそんな生活でも時間を捻出して執筆に打ち込めるってことは!(泣)そんな根性がないからおいらはやっぱりダメダメ人間なのさ(凹)。
 愚痴はここでおしまい。では続いて今回の小説の背景について。…っていうか今回はホントにひどかった。暇がないのと精神的な問題で執筆になかなか入れなくて、書き出したのが〆切二日前。トータルの執筆時間は推敲含めてわずか十一時間。…まともな文章になるわけないっ!(涙)おまけにその前のほぼ半年間、何も書いていなかったわけだし。えー大変見苦しい文章をお見せして真に申し訳ゴザイマセン。井戸より深く反省しております。
 自省もここでオシマイ。次は、今回のネタ及び小説本文に対するツッコミです。まずは、今回の話のモチーフとなった『妖精の輪』についてから。実は、最近この『妖精の輪』をいづみはリアルで目撃しました。在籍する研究室の案内で七月に淡路で行われた研究集会に出かけた時に、その会場前の芝生にひょっこりとありました。いやほんとにきれいに刈りこまれた芝生の一角に何故かぽつんと並んだキノコのわっか。しかも気になるのは、そのキノコの種類が複数だったこと。…はっ!もしかしたらアレは『本物』だったのだろうか?く、内側に触ってこなかったことを今私は心より後悔しているぜ!(本気)まあこの発見があまりに驚きだったので、頭から離れずにいろいろ考えてるうちに今回の話のネタに行き着いたというわけです。んでその話そのものに移るんですが…もうツッコミどころが痛すぎてどうしていいやら(死)。とりあえず最大のポイントはこれにつきるでしょう。「ナシィさん、やっぱりただの幼女誘拐犯にしか見えません(痛)」いやだって木陰に連れ込んで餌付けして村の外の森へと連れ去っていくんですよ。どう見てもアブナイ人です。ああなんてことだろう。そんなつもりはなかったんだけどなあ…あんまり(おひ)。まあ続くツッコミポイントとしては、書き出しの台詞を書いた瞬間に幼女二人組の年齢が何故か予定より三歳ほど下がったこととか、っていうかそもそも幼女って時点でいろいろまずくないのかとか以下略。ナシィさんの設定に関してはもう今更なのでスルーということで。ちなみに途中で彼が語った話ってのはシリーズの読者ならきっとご存知のあの話を元にしてみました。懐かしいね。そしてこの話の時間軸がちょっとだけ分かったね。…しっかしあの時もナシィは幼い子供を相手にしていたような。―いや待て!確かにナシィは天然でボケでいぢられでいじめられなキャラではあるが、保護者属性も持ち合わせているに違いない!うんそうだよ、いくらなんでもまさか幼児愛好家だなんてことは…(検閲により削除)。
 というわけでとりとめもないアトガキはこれにておしまいとしましょう。いつもならここで今後の予定が入るんですが、今の状態だと小説が書けるかどうかすら怪しいので何も語れません。まぁサークルの会誌が年度末に一冊残ってるので、そこの執筆が短編としてはとりあえず最後になるのかなあ…。また機会があったりアイデアが思いついたりしたら何か書くかもしれません。え長編?そんなヒマなど存在しませんよ(こら)。…ええと皆様のあるかもしれないかすかな期待をこれでもかと裏切り続けてしまっていて真に申し訳ありません。反省はしてます。相変わらず行動に移せないでいるのですが(殺)。
 それではまたいつか、どこかでお会いできる日を楽しみにしています。さよーならー。

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