(タイトル未定)(リレー企画第5弾D班)   第2章 小原 紀史(2/3)


ピカッと閃光が体育館の中を走った。
とっさに目をつぶる。
痛いほどの光だ。
気を失いそう。
ううっ。

どのくらい時間が経ったのだろう。
10分くらい経ったのかもしれないし、それ以上かもしれない。
恐る恐る目を開けてみる。
神社だ。
家の近くの神社。
お賽銭箱の前で女の子たちが遊んでいる。
「かごめ、かごめ、かごの中の鳥は……」

女の子の一人がこちらに気付いた。
「康太くんだ!」
えっ、なんで、名前を知っているんだ!
「お兄ちゃん、遊ぼ!」
そんなこと言われても……
「分かった。それじゃ何する?」
「わーい。それじゃ、お馬さんになって!」

あわれ、俺は神社の境内で馬になって、へとへとになってしまった。
のども渇く。
「疲れたあ。『なっちゃん』でも飲みてえー」
「お兄ちゃん、こわーい!わたしを飲むの?」
俺を初めに誘った女の子が言った。
「そうじゃないよ。オレンジジュースのことだよ」
女の子たちはあっけらかんとしていた。
「ところで、君、なっちゃんって言うの?」
「うん、なつこって言うの」
かわいい名前だ。

俺は神社の境内に大の字になった。
風が通り抜けていく。
気持ちいい。
大きく深呼吸をする。

「康太くん」
女の子の声だ。
俺は上体を起こし、辺りを見回す。
さっきの女の子たちはもう家に帰ってしまったようだ。
鳥居の下には制服姿の女の子がいた。
同じ高校生だろう。
知らない。
近づいてくる。
その顔がはっきりと見えてくる。
どきどきする。
やばい。
逃げ出したい。
足が重い。

あっ、これは、夢だ!
俺は思った。
いつも見ていながら、朝になると忘れてしまう夢。
何か、大切な物の夢のようで。
何か、大切な人の夢のようでもあった。
そう思っているうちにも、女の子は近づいてきた。
「康太くん、こんにちは」
「はっ、はあ」
俺は相槌を打つしかなかった。
いったい、お前は誰なんだ?
名前を聞いても絶対に教えてくれないんだ。
「失礼ですが、あなたは……」
相手は俺の質問を無視した。
「これは、夢であって、現実なの」
俺を混乱させる気か?
そうは、いかない。
お前の正体を今日こそ明かしてやる。
その俺の気持ちを見透かしたように、その女の子は言った。
「わたしはなつこ。康太くんに会えてよかった」
片手には手紙を持っている。
もしかして、ラブレター!?
でも、なつこ、という名前は知らないなあ?
そういえば、母の名前もなつこだったっけ。
確か、そうだ。
女の子はにっこりと笑った。
そして、手にもっていた手紙らしきものを俺に渡した。
俺は手紙を受け取って、じっと見た。
顔を上げる。
いつの間にか女の子は俺の目の前からいなくなっていた。
俺は手紙の封を開けて、読むことにした。
もしかして神社で告白!?
なんて、ロマンチック。
でも、ちょっと古風かな。
俺はそんなことを思いながら、最初の1行目を読み始めた。


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