(タイトル未定)(2001年度新歓リレー企画)   第3章(3/6)


少女は、定められただけのことを言ってしまうと、
つかつかと扉に近づいていった。

閂を外し、重い鉄の扉を押すと、
白い光がロランの目を灼いた。
同時に、部屋に棲みついていた闇がさっと逃げだす。


部屋はロランの予想よりはるかに広く、
奇怪な植物の標本が床じゅうに散乱していた。

──いや、
植物ではなかった。
「ロラン」の記憶をたどる。たしか東洋では、虫から生える草を薬にすると、聞いたことがある。
──しかし、
こんなことがあってはならない。
植物と見えたものは、すべて人間の体から生えていた。
苦悩の表情を浮かべたままミイラ化した「標本」の一体と目が合い、思わずロランは目を閉じた。

どこかで水の流れる音が聞こえる。
違う。これは自分の体内から聞こえてくる。
「種」が、ロランの血を吸いあげる音だ。

目を開けると、目の前にカレヴィアがいた。
笑っている。
少しも屈託のない笑顔でありながら、
そこには人間らしさが微塵も感じられなかった。
「あなたは」
少女が口を開く
「ロランに根づいたもの」
逃げだすしかなかった。
よろめきながら、カレヴィアの手を振り払って、廊下に走りだす。

砲撃を受けて崩れた天井、壁にのこる無数の弾痕を見て、ようやく彼には現状がのみこめてきた。
政府側の総攻撃はもう終了し、反乱軍のメンバーは皆戦死するか降伏するかして、もう博物館には生きているものは残っていないのだった。
その中でロランとカレヴィアが発見されなかったのは、おそらく敵の注意が包囲を破って逃げたマドラスに集中していたからだろう。

しだいに歩くのが楽になる。
おそらく、「種」の根が末端神経までのびた結果だろう。
「種」が彼の体を侵触していくのではない。
なぜなら、「ロラン」はすでに死に、今、彼の精神と肉体を操っているのは「種」なのだ。
しかし、主を失った「ロラン」の記憶は、それを拒もうとしている。

歩みを止めて振り回ると、やはりそこには、黒髪の少女が立っているのだった。


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