げぇむで吐血(2001年度新歓リレー企画) 第1章 阿由羅 (1/3)
歌が聞こえる。
その声は雪の降る夜の凛とした空気をたたえ、しかし冷たくはなく、限り無く清澄であった。
「まぁっしゅるぅむはぁんてぃんー、まっしゅるーむはぁてぃんぐ♪」
……聞かなかったことにしよう。俺はそう決めつけると頭から布団をかぶり直す。
ドグシャッ
「げふぅ」
「さっさと起きんかい!」
腹部に深刻なダメージ。損傷率70%を越えている。
「今日はまっしゅるぅむはんてぃんぐの日だよ、お兄ちゃん。とっとと起きろや、コラ☆」
「ぐぼぉっ! なんじゃこりゃぁぁ〜っ! 一体何なんだ、そのまっしゅるーむはんてぃんぐってのは。それよりもまずいかなる理由で扉を貫通しつつ内臓破裂で吐血しなきゃならん程の威力で飛びげりをくらわす」
「そんなことより。ましゅるうむはんてぃんぐだよ。約束したじゃん」
「いつ?」
「いま」
「おひ」
「いーぢゃん」
「ダメ」
「死ぬか?」
「行かせていただきます」
そして俺はさらわれた。実の妹に。
* *
森がある、と思っていただきたい。
それも富士の樹海のように妖しげな雰囲気を醸し出しているわけでも明治神宮の森のように厳かな空気をたたえているわけでもない。
「裏山?」
そんな言葉が頭にひらめく。
ただ一つ、裏山とは明確に異なる点があるとすれば
『きのこの山』
という立て札があることだった。
「メ○ジのおかし……」
「ぢゃないよ」
今頭の中に突っ込みやがった。
「俺はたけのこの里の方が好きなんだ」
「うん。知ってる。まっしゅるぅむはんてぃんぐはこっちだよ」
そう言って妹は俺の手をひいていく。ああ……。荷馬車がゆれる。
30分も歩いただろうか。突如目の前に金網があらわれた。
『立入禁止』『天地無用』『エサを与えないで下さい。』『高圧電流、触るな危険!』
……っておい。
「なんじゃこりゃぁぁ〜っ」
「気にしない気にしない。こっちだよ」
さらに奥へと歩いてゆく。問答無用らしい。
しばらく歩くと金網がとぎれていた。
『受付』の札を下げた小屋が一つ。中にはおじさんが一人。ベレー帽にサングラス、迷彩服にアーミーブーツ。さらに肩にはショットガンを装備している。明らかに不審者だ。
「すいませぇん。まっしゅるぅむはんてぃんぐに来たんですけど」
「はい、こちらの同意書にサインをお願いします。説明は?」
「無ゥ駄無駄無駄ァァァ!」
「はい。ではこちらにサインを」
何事もなかったかのように紙を2枚差し出す。
俺は背後からのぞき込み……
裏拳をくらった。
「俺の背後に立つんじゃねえ」
妹よ、お前はもう俺の知らない人になったんだな。
「はいこれ。目を通しといて」
そう言って紙を一枚わたしてくれる。
どれどれ……
「一つ、場内では他のお客様の迷惑になりますので携帯電話はマナーモードにお切り替え下さい」
「一つ、場内ではあらゆる道具の使用が許可されていますが、場外に持ち込まないで下さい」
「一つ、場内でおこった一切の事故に対して管理局は責任を負いません」
「一つ、分かったらサインしやがれ」
そしてその下に……俺の名が書かれていた。
「お兄ちゃんの分サインしといたよ」
引き返すチャンスが一つ消えた。
「さ、行こうか」