ショートストーリー集

 メモリアルカウントを記念して、掲示板上で綴られたショートストーリーの再録です。
 どちらかと言えば「断片」という感じが強いですけどね……。

(無題?)

ヤタガラス
(900HITお題「雪・白・少女」:2000.11.07)

白き体ができてゆく、どこまでも高い空の上で。
雪に生まれし者なれば、汚れた風やすさんだ心、
解かして消えるがそのつとめ。
下界へ。

空に飛び出して上を見ると雲の切れ間に太陽が覗く。体が輝き、少しずつ小さく
なるのがわかる。そんな私を風が巻き込んだ。このまま空で消えるのも悪くない、
そんな気がする。ただ・・・。
下には輝く街が広がっていた。あそこで皆が待っている。行こう、と一気に落下を
はじめた。
もっと速く・・・。吹き上がる風はものすごい勢いで私の体を削って行く。
そんなことは気にしない。もう街しか見えない。視界に入る物は何?
考えてみれば、人が居るところが街だ、ってそれだけしか知らなかった。
人が暮らす処、それが今、目の前にある。そして人は私たちを見て
喜ぶのだと聞いた。どこにいるんだろう?でも、もう気にしている時間はない。
意識が薄れ始めた。からだがもうないんだ。あの樹に降りよう、とぼんやり
思ったとき歓声が聞こえた。向こうから駆けてくる。人の子供だ。
声が空を高く震わせている。きっと、女の子だ、いや確か・・・
そう、少女って言うんだった。
消える場所、やっと見つけた
その子の、手の中へ。あたた、かかった、


午後0時13分52秒

ヤタガラス
(800HITお題「恐竜・危機・2」:2000.10.16-17)

慌てて部屋に飛び込む。カーテンの隙間からさしこむ暖かな光に照らされた、
わたしの部屋。でもそこには信じたくない光景が広がっていたのだった。
レースのカーテンが切り裂かれ光は床に模様を作る。その光に照らされて
花瓶のかけらが悲しく光る。花瓶に生けられていた一輪のコスモスは、
今はただ濡れたカーペットの上に惨めな姿をさらすのみだった。
そしてそこに佇む大怪獣。よくも・・・。
その時すでにわたしは腕を振りかぶっていた。
「必殺・ディノストライクっ!!」
ぽんっ。
間抜けな音をたてて恐竜のぬいぐるみが転がった。当の大怪獣は反抗的な
目をこちらにむけている・・・。猫は、イヤそうだった。とことこベッド
の下に入って行く。
わたしはどうすればいいんだろう・・・。
なんとなく固まってしまったわたしには、すべてのことがとても
遠いところのことに思えてしまっていた。
ごぼごぼごぼごぼ。
うん、ごぼごぼ。
ごごぼぼぼぼぼぼぼぼしゅーーーじじゆうううーーーーー

「ごぼごぼ・・・。」
口に出して言ってしまってたみたいだ、って
のんきに考えてる場合じゃない!急いでキッチンに戻ると、
鍋が蒸気を噴いていた。ついでに鍋のふたの上に置いた
ミートソースが横に落ちてた。でもそれだけ。どうやら鍋君は
自力で危機を乗り切ってくれたらしい。パスタをざるに
あけようとすると、鍋からぶら下がった。間抜け。
さっさとスパゲティーを食べて部屋の掃除。細かな破片を
吸おうと掃除機のスイッチを入れると、暗がりに2つの目が
・・・。同時にわたしの目も光る。掃除機の音はさらに
勢いを増し、わたしの自由な手にはあのぬいぐるみが
握られていた。そして、本日2回目の恐竜の危機、
ディノクライシス2が幕を開けた。


(無題)

椎名流
(777HITお題「ノート、トロッコ、コンセント」:2000.10.11)

教室の机の上に無造作に置いてあったノート。近づいて表紙を見る。
私の夢がつまった、秘密のノート。
なんだかなあ。秘密ならもっと大事にしておけよ、と言いたくなる。
ノートを手に取る。表紙に手を掛ける。オルゴールを開くようにそっと開けてみる。
とたんに、中からいろんな物が飛び出してくる。
メリーゴーランドの馬、だるま、黄色いネズミのぬいぐるみ、金のエンジェル、などなど。
なかでも、とりわけ気を引いたのがトロッコ。
まるで乗ってくれと言わんばかりに僕の前に止まる。
これに乗ったらどこかに行けるのかなあ。
そんな思いが頭の中を通り過ぎていく。
よし、と声を出しトロッコに乗る。

動かない。何でかなあと思って調べてみると、トロッコから伸びているコードを発見。
たどってみると、コンセントにささってないだけだった。
なんだと思い、さしこもうとする。やっぱり、やめる。
トロッコから降りる。

ふふっ。ノートを閉じる。
すべてが霧のように消え去り、残ったのは僕とノートだけ。
でも、僕の脳裏にはあのハート型のコンセントがいつまでも焼き付いてました。


(無題)

ヤタガラス
(750HITお題「ケーブル・電池・はがき」:2000.10.10)

「拝啓

サツマイモのおいしい季節になりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
このたび農協では新しく農家になられました皆様に楽しくおいしい野菜の
育て方を知っていただこうと、地元ケーブルテレビ局の協力を得て
農耕チャンネル(仮名)を開設します。これを記念して先着10名様に
専用チューナー(単一乾電池2本付き)をプレゼントしますので、同封の
応募はがきにてどんどんご応募ください。また、同はがきにて番組名も
同時募集中です。こちらも素敵なプレゼントを用意しておりますので
是非ご応募ください。末尾ながら日頃からの皆様のご理解、ご協力に
感謝いたしますとともに、これからも農協をよろしくお願い申し上げます。
敬具 」


陰謀

ヤタガラス
(700HITお題「円盤・ねずみ・展示」:2000.10.06)

「ようやくたどりついた・・・・・・。」
赤茶けた地面が途切れ、一面の石畳に変わったところで俺は一息つくことにした。
背中のリュックからポリタンクを取り出し、水をあおる。少し肌寒い。
「しっかしこんな山奥によくこんなものをつくったな。」
そこだけ木々が避けたようにして広がっている広場には巨大な石の円盤が幾つも
転がっている。土地の人によれば原始時代の石貨だ。それらに囲まれるように
して意外なほど大きな木造建築物(こっちは高床式倉庫らしい)がある。
「で、あれの中に何が展示してあるか見てくれば十万円ってか。軽いな。」
さっさと終わらせようと梯子にとりつきかけて、ふと支柱の文字に気がついた。
   ねずみがえし
だからどうだっていうのだろう。倉庫にねずみ返しはつきものだ。そのまま
梯子を昇り倉庫の床に手が届いた時、突如目前に刃が飛び出した。
「・・・っ!!」
手を放しかけたところで今度は梯子が倒れこんでくる。背中を強かに打ち
梯子にはさまれて動けない俺の耳に全方位から聞こえてきたのは、何かとても
重いものが石畳のうえを転がってくる音だった・・・・・・。


グレイさん達の会話

jt
(700HITお題「円盤・ねずみ・展示」:2000.10.06)

いたるところが解析し、表示し、輝いている円盤の中で。
「ホカクニセイコウシタゾ。コタイスウデイエバイロンモカンガエラレルガ、コノセイブツガチキュウノシュリュウシュゾクダ・・・。」
「フン、テイノウダ。ハナシニナラン。ベークライトニツメテテンジシテオクシカツカイミチガナイ。」
「イヤ、ワレワレハ、ウチュウセイメイノタヨウセイトココノシュケンニケイイヲハラウベキダ。コレラノシュノ、シャカイヘノテキオウ、セイメイリョク、マチガイナクトクヒツニアタイスル。」
「クダラン、ソレダケナラバ、セッソクドウブツデマサルモノガイルゾ。」
「ゴキブリカ、イヤチガウ。チセイニケイイヲハラエ。サイコウチテキシュゾクデアルホモサピエンスガ、キネンヒヲキズイテコノセイブツシュヲタタエルサマモカクニンサレテイル。カクショニズゾウモアフレテイル・・・」
「フン・・・マアイイ、デハコノセイブツヲキョウセイシンカサセ、ワレラトコウショウカノウナロンリキバンヲアタエテチキュウノダイヒョウトミナスノダナ。」
「ソウダ・・・・シンカゴハ、ホモサピエンスノシュウカンニナライ、カレヲミッキートヨボウ・・・」


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