最初は土くれだった。
長き時を経て自我を持つようになった。
土くれを形付けていく者がいた。
土くれは己以外の存在を知った。
土くれは姿を与えられた。
そして、視覚を与えられた。
土くれは人形となった。
人形は人を知った。
それから、人を観続けた。
人と人形の違いを知った。
時の流れの中、人形に手足を与える者がいた。
人形は手足の使い方を知った。
人形は動けるようになった。
人形は顔を造った。
人形は聴覚を得た。嗅覚を得た。味覚を得た。
そして、声を得た。
人形は気付いた。
不思議な音だ。
人から聞こえた。
人形は聴いた。
音は人の胸から聞こえた。
人形は音の源を調べた。
不規則なリズムで蠢く赤い塊だった。
人形はそれを自分の胸に埋め込んだ。
人形にはまだまだ足りないものがあった。
人形はそれらを人から得た。
人形は完成した。
しかし、人形はまだ足りないような気がした。
人形は新品の人から、一つずつ取り出してみた。
足りないものはなかった。
けれど、何かが足りなかった。
人形は旅人と出会った。
人形は尋ねた。
人形には何が足りないのか。
旅人には質問の意味がわからなかった。
逆に、人形が何物であるかを問うた。
人形は完成するまでのことを語った。
「なんてことだ。お前は人の形をした悪魔だ。お前に人の心はないのか。」
人形は知った。
足りないものを知った。
旅人に尋ねた。
「人の心はおまえの中のどこにあるのだ。」
旅人は答えなかった。
旅人は答えられなかった。
人形はがっかりした。
どれだけ細かくしても、旅人からは心は見つからなかった。
しかし、収獲はあった。
悪魔の存在を知った。
人形は悪魔を捜した。
そして見つけた。
人形は尋ねる。
悪魔は答える。
「目には見えないものだ。欲しいのならくれてやろう。」
人形は心を得た。
人形は本当に完成した。
ヒトガタはヒトになった。
人は否定した。
己の存在を否定した。
人としての存在を否定した。
人は心を失った。
人形はその姿のすべてを失った。
土くれは自我を失った。
土くれはもう単なる土くれでしかなかった。
人は耐えられなかった。
己の行動に耐えられなかった。
心が耐えられなかった。
そして、心とともに全ては絶えてしまった。
悪魔は笑う。悲しむ。
そして、憐れむ。
ヒトならざる者のヒトへの憧れを。