ミカン@コタツ@サバク

jt

   1日目

 コタツにミカン。ミカンは田舎のおばあちゃんが送ってくれた、時々虫食い有るけどおっきい甘い、汁のいっぱいあるやつ。コタツは家族四人で囲むとちょっと足とか当たる大きさ。ちょっと色のあせたコタツ布団の上にもう一枚、母さんの編んだ丈夫な目の荒いカバーが乗っている。見るからに暖かそうなオレンジと赤。
 で、ぼへーっとコタツにもぐっているアタシ。綿の一杯入ったどてらを着て、すっぴんで髪もぼさぼさ。じゃまな前髪を頭の上でしばっちゃったりなんかして。ちょっと、クラスの友達には見せられない格好。だけど楽。ついさっきまで家族で年越しの紅白歌合戦なぞ見てたところ。もう終盤の演歌のオンパレードに来てて、アタシは半分夢の世界に行きながら、あごをえーと、天板っていうのかな? 板の上に乗っけて口開けてたりした。もう、ミカンの皮をむくのもおっくうで。でも今はあごは乗せてない。というか、触ってない。
 なぜかというと、熱いのだ。天板が。かんかんに熱い。肉が焼けそう。空気がゆらゆら揺れているのが見える。あごを乗せたが最後、じゅっとかいって焼けて張りつくんじゃなかろうか。とりあえず、ミカンはアタシのお腹の上に抱え込んで確保している。今やなけなしの食料だし水気だし。
「うー、焼けるー」
 もう何度目になるんだか、アタシはやる気なさげに、恨めしげに、上を見た。目を細めて、それでも眩しくて痛い。頭の上に、お日様。もう、さんさんと輝くなんてもんじゃない。スポットライトとかそういうものみたいに思いきり遠慮なく光りまくり。熱出しまくり。ピカーンとかキラーンとか効果音が聞こえそうなお日様だ。天井が欲しい。髪の毛もちりちり焦げそうな気がしてやばい。頭さわったら熱いぞ、きっと。
 そいで、明るすぎるお日様から目をそらすと、天板が木目調でもやっぱり単なるプラスチックなんだなあ、という照り返し方をしちゃっている。その向こう。どこまでも続く地面。地平線が見える。ピラミッドとかラクダとか似合いそうだ。無いけど。なんにも。
 サバクだよねえ、これってやっぱり。白い砂の砂丘とは色が違ってもっと濃い土色の、ほら、砂浜の濡れている部分みたいな色の、砂というより岩なんだけれど、水気はない。たしか、地面が砂じゃなくてこういう岩でもサバクって言って良かったはずだ。地理の教科書だと。
 日差しが強いもんだから空気も地面もからからに乾いて遠近感がちょっとおかしい。手近なところを見ると、ひび割れてまばらに枯れ草が生えている上にコタツ布団が乗っかっている。
 もう考える気が失せるくらい、変。
 コタツにミカンにドテラにスッピンで、アタシはサバクのど真ん中にぼへっと座っている。なんだ、こりゃ。

 あまりにもあんまりでもうぽかんと口をあけて固まっていたいところなんだけど、しかし、まあ、ヤバイよね、それは。もしかすると干からびて死ぬよね。
 考えよう。えーと、まず、どうしてこうなったかというと、うん、嵐が来たんだ。竜巻かも。とにかく天気予報には出てなかった強烈なやつがいきなりどかんと。北島三郎の顔がざらざらっと歪んで、何かなっと思ったとたんに家中にがたんと来た。天井が1回みしっと鳴っただけであっさり吹っ飛んで行って、でもって、アタシは風に巻き上げられたんだ。コタツごと。というかコタツがぶわっと舞いあがって、たまたまアタシがそれに乗っかったまま飛んで行った、というほうが近い。つーかそのまんま。そーいえばコタツって風に乗りやすそうな形をしている。
 しっかし。思い出してもやっぱり、無茶だよね。ワケわかんないよね。なんで、コタツ? じゃなかった、なんで、サバク? どこのサバクよ? ここ。
 まあ、起きちゃった事はしょうがないから百歩譲って、アタシはコタツごと、急に来た嵐だか竜巻だかに巻き上げられた、これはよしとしよう。でもって、どこぞのサバクまで飛んできた。
 ……そんな馬鹿な。
 でもどう考えても日本じゃないもんね、ここ。鳥取砂丘とかでもない。そうだったら嬉しいんだけど、でも、お日さま高すぎ。日本は今冬なんだから、こんなにお日さまが高いわけはない。ということは、もっと南のほうの赤道に近いあたりの、サバクってことはうんと西? 良くわかんないけどエジプトとかその辺。風に運ばれてそこまで来ちゃったのか。
 そりゃまあ、何時間くらい飛ばされたのか、ぎゅっと目をつぶってたし途中気絶してたような気がするし、これまたわかんないけど、そんなに長い時間運ばれたんだろうか、アタシとコタツ。そういや、あの時夜中だったのが今はもうどう見ても昼だから、12時間くらい? あ、違うか。時差があるんだ。えーと、西に行くと時計が早くなるんだっけ? 遅くなるんだったかな? ま、どっちでもいいや。
 我ながら、ぼへっと泣きもわめきもせずに座っちゃっている自分が変な感じだ。一応、まともに普通の乙女の筈なんだけどな、アタシ。なんかもうさびしさに涙したりピンチに打ちひしがれてヨヨヨとかいう女の子女の子した神経、水気といっしょに蒸発しちゃってる感じがする。ああ、まあ、泣いたってどうしようもないから別に良いんだけど。
 しっかし熱い。これがね、暑くないんだよね。湿気がないせいだろうか、あのムシムシしてムキーとなったりダルーっとなったりする暑さとは違って、結構、過ごしやすい。日光浴のあの気持ち良さ。これが観光に来たんだったら、日差しを楽しんじゃうかもしれない。呑気な話だよね。
 汗が出る端から蒸発して行っているのが分かる。喉も乾いてきた。これってかなりやばいんじゃないだろうか。
 うん、ミカン食べよう。
 あれだね、コタツにミカン、正しいよね。これがサバクじゃなきゃね。
 皮をむく。なんかやたらむきやすい。皮が乾いちゃってるからか。ぱりぱりってはがれる感じ。で、食べる。
 ん。んー。ちょっと情けない顔しているかも。この、さ、温まったミカンてすごい味がする。やたら濃い。あ、でも、汁気は有るぞ。これで乾き死にはしないかもね。のどから体中に染み渡る。ありがとうミカン。ありがとうおばあちゃん。孫はミカンで生きのびます。て、なんだろうね、ホントにこれは。
 と。足元がもぞもぞする。コタツの中になんかいる! うわ、動いてる。登ってくるぞ? なに? トカゲ? サソリ? ドクヘビ? ぎゃー!
「なーんてね。アンタもいたのか」
「んにやあご」
 なんつーしまりのない鳴き声。猫ならにゃあと鳴けよ。
 薄いしま模様のデブ猫が、アタシの脇に顔を出した。目が細い。口開けてあくびしてる。やたらゆっくり気を抜いて鳴くから『にゃあ』が『にやあ』になって『ん』と『ご』がつく。
「にゃごきち、アンタも災難ねえ」
「んにやあご」
「……これで水分に続き、たんぱく質もゲットね」
「みや」
 あ、また頭引っ込めた。ち、逃げたか、じゃなくて。わりと嬉しい。うん、だめ猫でぶ猫なまけ猫でもいないよりずっと良いわ。一人じゃないもんね。
 一人だったら、このままぼーっとしたまま、乾き死にする前に狂ってたかもね。そういや、サトシにブスって言われた時もアンタがそばにいてくれた、というかだらっと体伸ばして寝てたよね。アタシが泣いてる間、一晩中。ちょっとしみじみ。
「にゃごきち、ありがとね。一緒に来てくれて」
 返事はない。おコタにもぐって丸くなってる。暑くないのかな? て、あ。気のせいかな? コタツの中のほうが涼しいような気がする。
 あ、そうか。そうかそうか。多分、外の空気のほうがアタシの体より熱いんだ。で、こんなところに電源ないからコタツの中暖まってないし。日差しが当たらないだけまだましなんだ。
 もぞもぞもぞ。アタシもコタツにもぐる。ちょっとは光が布地を通るから、真っ暗ってワケでもない。にゃごきちと目が合った。
「ありがと、アンタかしこいわ」
「んなご」
 そういや、小学校の理科で習ったような気がする。氷を綿で包むと、溶けるのが遅くなるんだよね。布とか服とかって、あっためるものじゃなくて熱とか冷たさとかが通らないようにするものなんだ。暖房じゃなくて保温。だから、本当に空気が熱いところだと服着てる方が我慢しやすいんだって先生言ってたっけ。あと、サバクの人は体を覆うような格好してるとか、そういう話に脱線してた。いや、タメになります。ありがとう先生。
 コタツとドテラとにゃごきちとミカンの分だけ、アタシって運が良いのかもね。
 ちょっと布団の端から顔を出して向こうを見た。アタシは運が良いって思ってみると、地平線の端っこにちょびっと建物が見えるような気がする。ごま粒みたいだけど、丘とかとは違いそうだ。行ってみるか。ここにいたら死んじゃうしね。なんとか動こう。頑張ろう。


    2日目

 サバクの夜は寒かった。そういや、そんな話も聞いたこと有ったような気がするけど、マジで寒かった。けどまあ、ドテラの中ににゃごきち抱いてコタツの中にいたら結構平気だった。というかかなり快適だった。ビバ、コタツ。サバクにコタツってもしかして究極のアイテムだったりしないだろうか。

 昼間はコタツ被ったままミノムシ的に進む。敷き布団は半分めくり上げて足元で地面をじかにけるようにして、腕でコタツの頭のほうちょっと持ち上げて進む。コタツがサバクを進む。ギャグだわ。
 疲れてくると休む。あんまり早く進めなくてまどろっこしいけど、コタツ置いて行ったら確実にノタレ死にしそうだし。
 のたくた。ずりずり。のたくた。ずりずり。
 ヒマだ。単調過ぎ。にゃごきちもべたっと寝そべりっぱなし。つーか、少しは手伝えよな。
「食うぞ」
「んにやあご」
 あくびしてやんの。はいはい、あんたは殺してやりたいほどかわいいわよ。

 あー、そういえば夜のうちに思いつきかけたんだけど、なんかこういうお話し有ったような気がする。風で余所の国に運ばれちゃってってやつ。
 エネルギーの無駄遣いかもしれないけど、お休み中にちょっと考える。
 あ、あれだ。オズの魔法使い。ドロシーがつむじ風で家ごと飛ばされちゃって、それで魔法の国の野っぱらにつくんだ。んでもって元の世界に返してもらおうって魔法使いに会いに行く途中で臆病なライオンとかカカシとかブリキのロボットとか出てきて……。
 ちょっと、腹立つかも。だってズイブンな差じゃない? あっちは家ごと飛べて、着いたのは野原で、優しい仲間たちと素敵な旅。歌なんか歌っちゃって。
 アタシはコタツだけで飛んできて着いたところはサバク。なまけ猫引っ張ってコタツでずりずりほふく前進。ホント、不公平だわ。そりゃ映画のドロシーは金髪にそばかすのかわいい素敵な女の子だったけどさ。アタシだってかわいいって評判なんだよ。えーと、おばあちゃんに。
 いけないいけない。こんなところで後ろ向きになったらめげそうだわ。
 うん。悪くないんじゃないかな。サバクだからね。家の屋根かついで旅するのは無理だろうし、仲間がぞろぞろいてもしょうがないし。コタツにだめ猫でオーケーじゃん。
 て、ここがサバクだってのがもう見事に不幸なだけか。あ、でも北極とかで速攻で凍え死によりはマシだよね。町はありそうなんだし。ミカンがあるし!
 ミカンを一個食べた。のどが乾くしお腹も空くけど、あと何日かかるかわかんないから大事にしないとね。にゃごきちもふた房分だけミカンの汁をなめた。猫って肉食なんだよね。残りかすはアタシが食べた。なりふり構っていられないし。残りミカン3個。

 町がどのくらい近づいたのかは、目をこらしてみても良くわからなかった。


    5日目

 疲れてるんだろうな。自分の体がわからない。声が出せなくなった。体が栄養を節約しているのかもしれない。地面が熱いのが辛い。
 最後のミカン、半分だけ食べた。栄養になっているのかどうか良くわからない。けどなくなったらきっと困る。明日は半分の半分にしよう。
 草も食べなきゃいけないんだろうな。けど、枯れちゃっている草はのどに詰まって辛い。飲み込めないで戻ってくる。細かく細かく噛んだら、口の中のなけなしの水気がもっていかれる感じがした。飲み込む時にのどを傷つけたのか、きりきりと痛い。目に涙がにじみそうだけど乾いている。涙が出たら、にゃごきちになめさせてあげられたのにね。残念。
 にゃごきちも辛そうだ。ミカンをなめる元気もないみたい。毛並みが乾いて所々禿げている。目が開いているのか閉じているのかわからない。体が細くなって軽くなっている。けれど今のアタシにはそれでも重い。アタシも、見た目はあんまり変わらないのかもね。

 頑張ろう。


    7日目

 ミカンがなくなった。皮を食べた。固くなってた。
 草はあんまり良くないみたいだ。無理やり飲み込んだら、胃から戻してしまった。苦しい。吐いてから、ええと、あんまり思い出したくない。
 体から出る水気とかは全部飲むようにしてる。普通だったら出来ないんだろうな。アタシ、女の子、だよね。今はドーブツみたいだ。生きていこうとしてる。とにかく。

 にゃごきちが動かなくなった。


    8日目

 にゃごきちを食べる。
 毛をむしったら簡単に抜けて、時々肉がちょびっとついてくる。あと、口の中なんかは柔らかいから、そういうとこからなら、なんとか食べられる。乾いたみたいでもまだ、血とか残ってた。久々の、水。
 まだ、生きていける。

 町はごま粒のまんま、なのかな? かすんで見えない。目がヤバイ。


    12日目

 お肉はもうない。こびり付いてる分も乾いて骨と一緒になってしまった。
 けど、骨が簡単に割れて、中に食べられる柔らかいところが残っていた。

 5回、進んだ。1メートルくらい、かな。もう少し、進めてないかな。


    14日目

 水気と血の味で気がついた。夢中ですすっていた。
 自分の手首に噛みついていた。そうだね。水ってここにしか残ってないもんね。もう。
 血を吸うと、頭がぼうっとしてきた。魂、みたいなもの、吸い出してる感じがする。
 もうだめ、かな。


    何日目だかわからない

 のどが痛い。突き刺さってくる。焼けつく。なんだろう。アタシ、一生懸命、のどを動かしてる。
 お水、飲んでるのかな? どうしてだろう。


    半日くらいあと

 目がかすむ。見えるようになってきたってことだ。やっぱりアタシ、水、飲んでる。のどももうあんまり痛くない。唇はかさかさして痛いままだけど、そう言えば唇のことなんか気にしたの初めてだ。
 かすんでる目。ゆっくり見えてきた。どのくらい時間が経っていてどのくらいお水飲んだのかわからない。結構少ないかもしれない。ゆっくり見えてきた。コタツの中じゃ、ない。日差しがある。日陰もある。人の形。
 アタシをみている人がいる。男の人だ。おじさん。日焼けしてる。ひげがすごい。サバクの人の格好だ。頭も服も白い布が巻きついたようなやつ。そういや、アタシの頭にもなんか乗っている。着せてくれたのかな?
 おじさんがなんか言っている。身振りもしている。言葉はわからない。けど、悪い人じゃなさそう。心配してくれてるみたい。大丈夫かな。そうだね。悪い人だったら、アタシ生きてるワケ無いか。アタシが元気だったら、おじさんを見つけたとたんに食べちゃったかもしれないね。
 水をもう一口飲んだ。水の匂いと、あと、もう一つ違う匂い。皮の匂いなのかな。アタシは皮の水筒を持っていて、そこから水を飲んでいる。おじさんがくれたんだろうか。
 体を起こす。背中、つりそう。辺りを見る。ぼーっとしたままの頭。首が重い。
 町の入り口みたいだ。埃っぽい。色々、声がする。こっちを見てる人もいる。建物は石で出来てて、アラブの宮殿とかそういうのじゃなかった。もっと簡単で四角い。
 ラクダもいる。そっぽ向いてる。背中に布がかけてある。あと、大きな物を背負っている。あ、見覚え有るな、あれ。
 左腕に意地汚く水袋抱えたままで、アタシは右手をラクダの荷物のほうに伸ばした。暖かい、優しい色をしている。おじさんが立ちあがってまた目の前に来て、何か言っている。身振り手振り、ラクダを指したりアタシを指したり水袋指したり。
 あ、そか。あれ、コタツだ。
 なんとなくわかった。というか思い出したのかもしれない。アタシ、コタツと水を交換したんだ。じゃなくて、コタツと引き換えってことで、このおじさんがアタシを助けてくれたんだ。そうだ。
 こうやって見ると、コタツって立派なやつだ。ラクダの背中で天板がどっしりとして大きい。布も、ずいぶん丈夫だったみたいだ。あれだけ引きずりまわしたのにね。すごいよ。
 アタシ、腕伸ばしたまんまだ。立ちあがろうとしてる。けど、両手ふさがったままで立てる体力、今無いみたいだ。アタシの仕草をどういう風に思ったのか、おじさんが肩を貸してくれた。
 ありがとうおじさん。いい人だね。コタツだけ拾ってアタシは放り出してきても良かったのにね。わざわざ取り引きにしてくれちゃったんだ。感謝感激。
 ひょこひょこ歩いて、というかほとんど運んでもらって、アタシ、コタツのそばに来る。ラクダはそっぽ向いたままだ。
 コタツ布団の厚い方と敷き布団は、天板の下に畳んである。寒い夜に包まっていたんだよね。このおじさんも布団にするのかな? 大事にして欲しいな。
 ラクダの背中にかけてあるのが、一番上のやつ。触ると太い毛糸がまだしっかりしていて、力強くてたよりになる感じだった。お父さんみたい。ううん、お母さんだね。大分色あせちゃったけど、まだオレンジ色と赤が残ってる。お母さんが編んだまんまで。
 あれ? 涙出てきちゃったよ。

 コタツ布団にしがみついて、思い切り泣いた。もうお別れなんだよね。コタツ、ありがと。一生忘れない。
 あんたに入ってぬくぬくして、アタシ、紅白見てたんだ。アタシたち、家族で、日本で、さ、年越ししてた。ミカン食べて。そうだよ。アタシの名前も『みかん』って言うんだ。お父さんが思いつきでつけっちゃった名前。それで反対しないお母さんもお母さんだけど。ヤスヒロは『みかきち』とか呼ぶしさ。みんなひどいよね。
 みんな元気かな。アタシ、ここにいるよ。なんて、絶対わかんないだろうね。

 あらら、なんか、ホントに、もう、しょうがないや。涙が出てくる。飲んだ分の水が全部出てきてるみたいだ。今まで泣けなかった分全部、なのかな? 頑張ったよね、アタシ。
 思い切り泣いた。まだのどが痛い。一生懸命、泣いた。
 ポン、て頭を撫でられた。おじさん優しいね。ありがと。
 ミカンも、ありがと。てことは、おばあちゃんにもありがと。ついでに枯れ草も、ありがと。

 にゃごきち、ごめんね。

 知らないサバクの町でアタシはどてら着たままで白いサバクの人の帽子を被っててコタツ布団にしがみついて思い切り泣いた。わあわあと泣いた。わあわあと、わあわあと、砂漠で、泣いてるんだ。


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