Trace of Feeling.

いづみ



 『永遠の命を保つ魔法の指輪』
 それはどこにでもあるおとぎ話の一つにすぎなかった。

 ―それを信じ、それに望みを託す者さえいなければ。


「不老不死を手にしたソーサラー魔道士がいるらしい。―いや、どうもこれは本当のことらしいぞ。何なら他の連中にも聞いてみろよ。」
「そういう噂はよく聞くよ。最近かい?そうだね、西の方からの旅人が何人か話していたかな。何でも森の奥に一人で住まわっていて、その森では人が消えるとか何とか。とはいえその話が出たのもここ十数年程度でしかないがね。」
「その話なら昔聞いたな。行商人が話してたんだ、死しても蘇るとかいう話だったか。…何でも、一度は捕まったものの命からがら逃げ出してきた猟師がいたらしい。そいつが言ったんだとよ。」
「森での失踪なんて幾つでもある話だろ。いちいち覚えてねえよ。…不老不死の魔道士がらみ?そういや前にそんな話もあった気がするな。いやウチじゃない、もっと南のスロウド近辺での話だ。」
「不死の魔道士?何言ってんだ、そいつが討伐されたのはもう六年も前のことだぜ。」
「その仕事ならここにも来てたよ。ああ、詳しく聞きたいなら『青葡萄酒亭』に行きな。あそこのアドベンチャラー冒険者が魔道士を仕留めたんだ。」
「六年前の魔道士討伐ですか。…ええ、メイジ魔法使いのミースさんに、アクサー斧使いをしていたプロテックさんに、職業はよく分かりませんでしたがヴェルトさんの三人組でした。あ、あと同行していた神官の方が亡くなられたとお聞きしましたが…。」
「悲しいことでした。はい、プロテックさんの依頼で、ハウスト師が同行したのですが…途中で魔物に襲われて亡くなりました。」
「また古い話を持ち出してきたな。いや、生憎ウチでも例の僧侶がどうやって死んだのかは分からない。奴らの言い分では森の中に遺体を埋葬したらしいしな。…で、残った三人だけで魔道士の残した財宝を分配したってわけだ。それもかなりのいわくつきの品までな。」
「毎度あり。ああ、財宝って言っても当然その大半は魔道具だった。それでもかなりの金額になったらしい。まだ売りに出されてるモノもあるはずだ。だが、問題はそれじゃない。…魔道士が不老不死を手に入れた、という話があっただろう。そのための魔道具があったらしい。それが―」

「『永遠の命を保つ魔法の指輪』、か。」

 朽ちた部屋の中に佇む一つの影がいた。
 かつてここで何かが起こったことを示すかのように荒れた室内には、流れ去った時の跡が降り積もっていた。
 砕かれた壁は崩れ落ち、引き裂かれたカーテンは色褪せ、投げ出された本には埃が重なっている。
 そして、床に転がる死体もまた時に侵されて白骨と化していた。
 影は身を屈めて、横たわる複数の死体の一つに手を伸ばす。
 腕骨を掴んで持ち上げられた骨の手は力なく垂れ下がり、その指の一つにかかっていた金属の環がくるりと回って落ちた。
 静寂に沈んだ部屋で虚ろな音が鳴る。
 影のもう一つの手がその環を拾い上げた。
 褪せた金色の地金が摘み上げた指の動きにつれ複雑な輝きを放つ。精巧な紋様の刻まれた細身の環の一端には台座のように持ち上げられた箇所があった。だが、そこにあるべきはずの石の姿は無い。
 割れた窓を抜けた光が、掴む物なき爪を光らせる。
「―ふざけたことを。」
 青い瞳の底に怒りを宿してヘルドは呟く。
 握りしめた掌の内で、朽ちた骨が音を立てて砕けた。


「指輪の在り処だって?―忠告だ。盗みにいくんなら止めときな。なんせ持ち主は、この街一番の大富豪にしてかつてベテラン冒険者だった、あの男だからな。」

 茜色の光が全てを照らしている。
 硝子の向こう、質素な調度の置かれた書斎らしき一室で二人の男が向き合っていた。部屋の中央には大柄な体を装飾の少ない柔らかな布地の服に包んだ初老の男性が佇み、開かれた扉の向こう側には痩身に革鎧をまとい青い髪を短く刈り上げた若いエルフの男が立っている。
「…『永遠の命を保つ魔法の指輪』を渡してもらおう、クラフェティ・プロテック。」
 ヘルドは険しい眼で相手を睨んだまま、目の前の相手の名を呼んだ。
 それに対して男性から返ってきたのは、鋭い眼差しと皮肉めいた一言だった。
「交渉をするには礼儀を知らぬようだな。」
 双方共に二言目の言葉はなかった。
 短い沈黙を挟みそれぞれ席を移した後、また唐突にプロテックが切り出す。
「用があるなら早くしろ。こちらも忙しい身でな。」
「―っ、さっきも言っただろう。『永遠の命を保つ魔法の指輪』を渡してもらう。」
 一人立ったまま苛立ちを押し殺すかのように抑えた声でヘルドが答えた。
 要求はただ一つ、指輪の譲渡。
「何故だ。」
 プロテックは現れた男に向かってまずその理由を、振り向くことなく問うた。
 視線さえ自分に向けることなく座る彼。その背をヘルドは険しく睨み続ける。
 ―それは人を侵す品。扱おうとすれば呪われし死が待つのみ。故に、それは決して人の手に触れぬよう消滅させるべし。
「…あれは、お前たちが持っていてはならぬ物だ。」
 言葉にすればただ一言、ヘルドはそれだけを答えた。
 それ以上付け加えることはなく彼の口からは再び最初の要求が続けられる。
「『指輪』を渡してもらおう。」
「断る。」
 だがプロテックは拒否をした。曰く、自身の所有物を正当な理由なく欲しがる相手に渡すことはできないと。
 何も知らず、何も理解せず。
 その胸に怒りを宿しながらも、ヘルドは説明を口にした。
「あの指輪に宿っているのは闇の力。人間がそれを手にすれば、得られるのは永遠の命などではなく忌まわしき死のみだ。」
 廃墟と化したかつての魔道士の住処に残されていた、破壊された指輪の残骸。そこに全てが印されていた。
 ―それは人を侵す闇の魔力の残滓。
「だが、断る。」
 それでもなお、プロテックは指輪を渡すことを拒んだ。ヘルドの言葉を聞き、それにうなづきさえした上での選択だった。
 ヘルドはもう一度だけ説明を繰り返した。指輪は単に闇の魔力をもつ魔道具にすぎないと。
 それに対して、プロテックははっきりと答えた。
「あの指輪が永遠の命をもたらさないことなど、始めから知っているさ。」
 ヘルドは言葉を失った。
 あまりにも思わぬ言葉に。目の前の男は知っていたのか。
「だが、いずれにせよこのまま指輪を渡すことはできない。」
 そして、それを理解してさえいて何故指輪を所有しようとするのか。
 ヘルドは問い詰めた。求める力もなく、使うこともできない指輪を何故所有しようとするのか、何故放棄しないのかと。
 告げられたプロテックの返事は、返答ではなかった。
「指輪を求めるのならば渡してもよい。―ふさわしい対価を用意するのならばな。」
「何を…」
「分からんのか。これは取引だ、完全に公平な、な。」
 プロテックはそう明言し、ヘルドは息を飲んだ。
 目の前の男は悪しき闇の力を金銭で売却すると答えた。
 欲のためにならば災いでさえも利用すると、そう答えていた。
「―金銭か!富か!何て愚かな話だ、己が触れているものの真の価値を理解しない奴らがっ!」
 怒りのままにそう口走り、ヘルドは一瞬のためらいもなく呪文を唱えた。
 魔術によって編まれし水の槌がかざした手の先へと出現する。眼前に具現化された攻撃の意思。
 しかしその瞬間、プロテックは、何ら身構えることもなくただ呟いただけだった。
「―力か。」
 抵抗ではないただの無力な言葉だった。
 だがヘルドはその手を止めた。
「…何だと。」
 場が停止する。
 自分を見据える男に向かって、プロテックが問うた。
「エルフの民よ、一つ問いたい。―お前は何故あの指輪を求める。」
 ―消滅させよ。
「破壊するためだ。」
「何故破壊しようとする。」
 ―それは人を侵す品。闇の力を人の手に触れさせてはならない。呪われし死を与えてはならない。守るべきは―。
「…指輪による被害から、人を守るためだ。」
 一瞬の間を挟みながらも己の正義を疑わぬかのように断言されたこの男の言葉に対して、プロテックは答えなかった最後の問いに対する返答で応じた。
「私も、人々を守るために、この指輪を破棄することはできない。」
 短い言葉だった。
 意図を汲めず、ヘルドが尋ね返す。彼の疑問にプロテックは窓より見える街を示した。
 人々の住まう街がある。その街は自警団によって守られている。その自警団は金銭によって維持されている。
 ―故に街を守るには指輪の売却によって得られる富が必要である。
 そのために、『永遠の命を保つ魔法の指輪』こそが必要なのだと。
「だから私には指輪が必要なのだ。」
 そう言い切ったプロテックは一瞬にして手にした戦斧をヘルドへと向けた。
 槌と刃。互いに敵意を形にした状態で、会話は再開された。
「だが、あの指輪を見過ごすわけにはいかないのだ!」
「何故だ。」
 それは人を侵す品。呪われし死を与えてはならない。
「生命を弄ぶもの、災厄をもたらすであろう存在を見過ごすことなど俺にはできんっ、」
 忘れてはならぬ。守るべきは―。
「―悲劇が起こる前に人とその生命を守らねばならないのだ!」
 ヘルドはそう答えた。強く、吐き出すように。
 だがプロテックは一歩彼に近づいた。
「今一度お前に問う。」
 更にもう一歩。
「―お前は何のために指輪を求めるのだ?」
 逃れられぬ問い。
 ヘルドは、叫んだ。
「しかし、俺は―!」
 胸元の手を正面に突き出す。
 極限までせき止められた水塊が、その瞬間、弾け―。
 床の上へと撒き散らされた。
「…要求を飲もう。金貨、八千枚相当だったな。」
 振り払ったヘルドの手が力をなくし下へと落ちる。構えていた魔法の解除にプロテックもまた戦斧を下げた。
 無言のままヘルドは腰に手を回し、提げられた小さな皮袋の一つを取り外した。手の上で逆さにする。
 青色の光が落ちた。
 受けた掌をプロテックの前へと差し出す。優に拳大はあろうそれは、岩より切り出したままの歪な形ながら何にも勝る青緑色の輝きを放っていた。
「エメラルドだ。これほどの大きさのものならば、十分だろう。」
 再びヘルドは宝石を皮袋へ無造作に放り込みプロテックに差し出した。
 承諾のうなづきを返して彼は受け取り、皮袋を机の上に置いた。次いで書物机の引き出しより鍵束を取り出す。
「指輪は二階の北東、北から二番目にある部屋の中だ。正面に置かれた紫の小箱に入っている。この鍵は返さなくともよい。」
 外した大型の鍵をプロテックもヘルドに手渡した。
 そして彼は背を向け、一人窓の元へと歩み夕闇に沈む街を見下ろした。
「見回りがそろそろここにも来る、急ぐがいい。―もう二度と会うこともないだろう。」
 背中越しに言い、それきり振り返ることはなかった。
 互いにそれ以上の言葉はなく、また互いの言葉を疑うこともなく。
 ヘルドもその背中に向けて小さく礼を返すと、侵入した時と同じように無言のまま扉の向こうに消えた。

 小さい頃に母に聞かされた。このエメラルドはかつての戦争の時に、先祖が用いていた品の一部だと。それ以来代々御守として一族に受け継がれてきたものだと。
 ―かつて闇と戦った先祖ならば、この選択を認めてくれるだろう。
 そう自分に言い聞かせながらも、ヘルドは湧き上る苛立ちを抑えきれずにいた。
 目の前には指示された部屋の扉がある。
 ヘルドは素直に渡された鍵を取り出して錠に嵌めようとし―既に錠が外されていることに気づいた。
 迷いは一瞬だった。
 すかさず廊下の端に駆け寄り窓から外を見ようとする。
 分かりやすいことに角の窓の鍵も外されていた。開いて見下ろしたすぐ先、屋敷の裏に当たる細い通りを走り去っていく小さな影がある。灰色の衣に赤い髪と猫の耳。
 右の手に何かが握られていた。掌に包まれた、紫色の物体。
 迷う時間はなかった。
「リエ・ラン・フェイル横たわる地の巨人よ、スポルディ・メ・フォート我が足を支えよ!」
 窓を開け放つと、ヘルドはそこから飛び出した。


「―これを返すぐらいなら死んだ方がマシだっ!」

 折り重なった建材に覆われて日の光さえ届かない裏通りの一角。
 ヘルドは、指輪を持って逃げた相手と向かい合っていた。
 家々の屋根の上を経由して逃げる彼の背後を追ったヘルドは、大通りを抜けた後のこの裏通りの途中でようやくその前に立つことができた。
 薄汚れた服に身を包んだ小柄なハーフキャットの少年は紫の箱をその胸に深く抱えこんでいる。
 彼は自分のした行為が分かっているらしく、ヘルドが呼び止めた際に迷わず逃亡しようとした。
 すぐさま魔法で足止めをし彼に言う。
「指輪をよこせ。」
 しかし少年は指輪の箱を強く握りしめるとヘルドを睨み返してきた。
「やだね、これは絶対に渡すもんかっ!」
 はっきりと拒絶の意を答えて。
 少年は、ヘルドの脇を通り抜けようとした。
「―ウォルム・ラン・フェイル・レス・ヘ地の蛇よ奴を薙ぎ倒せ。」
 ヘルドの口から小さな呟きが洩れる。
 次の瞬間、持ち上がった大地が少年の背中を強打して道端の木箱へと吹き飛ばした。
 ヘルドは彼の元に歩み寄った。気絶しないであろう程度には手加減をしてある。
 見ている目の前で少年はすぐに立ち上がった。
「…誰が、渡すかよ…。」
 少年はなおもしっかりと箱を握っている。
 ふと一つの疑問を感じたヘルドは、彼に向かって問いかけた。
「それがどういうものか分かっているのか。」
 返ってきた答えはある意味で予想通りであり、ある意味で予想を裏切っていた。
「知ってるさ、この辺のヤツなら大抵知ってるぜ。」
 彼は指輪の存在を知っており、だがそれが噂されているものに間違いないと思っていた。
「―その話は違う。」
 ヘルドはただ一言、彼の間違いを告げた。
 少年が絶句する。が、次の瞬間彼はそれを否定するかのように左右に首を振って叫んだ。
「…だまされるか!そう言ってこれを取り返すつもりなんだろ、そんな手には引っかかるかよ!」
「何をっ!」
 ヘルドが反論しようとした矢先に突然少年は彼を無視するかのように駆け出した。だが視線だけは油断なく彼の方に向けられている。
 説得している余裕はない。まず、足止めが先決だった。
「インデフィニーテ・ドロープ・ワテル・フェイル・レス不定なる水の塊よ我が手に集え。」
 かざした両手の先に水が生まれ、瞬時に塊となる。
 異変を感じたらしい少年の足がわずかに緩む。
「イクスパ行け。」
 伸び上がった水の塊は少年へと襲いかかった。
 同時に少年が脇に飛び退く。
 虚空を突き抜けた水はそのまま壁に衝突し、四散した。
 壁にクレーター上の穴が開き水の飛沫が辺りに飛び散る。恐らくは彼の予想していた力を上回っていたのだろう、少年は一瞬その跡を呆然と見つめた。
 遅れて我に返った彼がヘルドの方を振り返る。
「もう一度だけ言う。その指輪を渡せ。」
 ヘルドは繰り返し少年に言った。だが、少年もまた繰り返し断った。
「いくら脅したって、これだけは渡さないからな。」
 ヘルドの言葉は届いていなかった。指輪が偽りのものであるという言葉さえ、聞こうとはしなかった。
 ならば力づくでも奪うしかない。
「…骨折しても治してはやらんぞ。イクスパ行けっ!」
 ヘルドは話をあきらめ、彼の捕獲にかかった。
 水の塊が再び少年に襲いかかる。少年は背後へ飛んでそれを避けた。
 壁が砕け水塊が飛び散る音が三つ、四つと続けられる。
 少年の顔には疲れらしきものが見え始めたが、動きの敏捷さはほとんど落ちなかった。むしろ魔法に集中し続けているヘルドの側に疲労がたまり始めている。
 少年を狙って放った水塊が、また彼を捉え損ねて瓦礫に激突した。
 次の狙いを定めようとヘルドが身構え、少年が短い呼吸を挟む。
「…なんだぁ、うるさいな…。」
 その時、沈黙する二人の間で場違いな声が響いた。
 瓦礫の中から、老人が現れた。思わぬ事態に一瞬ヘルドが反応に迷う。
 だが少年はためらうことなく老人に駆け寄ると、一声かけてその手から何かをひったくった。
 すかさずそれを勢いをつけてヘルドへと投げつけてくる。
「うわっ!」
 咄嗟にヘルドは眼前の水を広げ、自身の前に障壁となるようにかざした。
 硝子の割れる音が響く。
 次の瞬間、かざしていた水が崩れ始めた。
 同時に割れた酒瓶が落ちていくのが見えた。
「しまった、水が…!」
 不純物が混ざったことで水に対する支配力が弱まる。ヘルドはすぐに魔法を解除して再構成しようとした。
 だが、その目の前に老人が立っていた。
「…てめえ、おれの酒を返しやがれ。」
 赤ら顔でひどく酒臭い息を吐き出している。
「なっ、―それはあの小僧が、」
「何だぁ、てめえ喧嘩売ってんのかぁ?さっさと酒をよこせって言ってんだろうが。」
 ヘルドは反論しようとしたが、目の前の老人はいきなり老人らしからぬ力で彼に掴みかかった。
「くそ、離せ!」
 胸倉を掴む手を引き剥がして急ぎその体を押し退ける。
 だが、既に目の前の道には少年の姿はなかった。


 人の溢れる通りを掻き分けるようにして走る。
 ぶつかった人々が不快な表情や苛立ちの言葉を返すが、その全てに構わずヘルドは走り続けた。
 裏通りを抜け出した先には別の道が続いていた。水に濡れた足跡がうっすらと残ってはいたものの、辿った先は人々の行き交う大通りに繋がっていた。
 少年の姿はどこにも見当たらない。
 街路を駆け回り、目撃談を聞き込み、当て所もなく探し続けながら、ヘルドはいつしか少年の言葉を思い返していた。
 彼はあの指輪が『永遠の命を保つ魔法の指輪』だと思い込んでいた。そして、絶対に渡すことはできないと言い、大切な物のように抱えこんでいた。
 ならば目的はただ一つ。その使用に、間違いない。
 ―それは災厄をもたらす。
 何としても止めねばならなかった。噂を聞き、情報を集め、屋敷へと潜入し、形見の宝石さえ対価として支払った末に悪しき魔道具を破壊できなかったのならば。それは全てが無駄になり、誓いを裏切ることに他ならない。
 ―それは人を侵す品。闇の力を人間に触れさせてはならない。呪われし死を与えてはならない。
 夕日はとうに沈み、藍色の空が夜を告げている。
 その中でひたすらにヘルドは少年を探して走り続けた。
 そんな彼の努力を嘲笑うかのように異変が起こったのは、その直後のことだった。

 肌を刺すような気配を感じてヘルドは足を止めた。遠方から、一瞬、何かの力が放たれて拡散したかのように突き抜ける気配があった。
 異常を感じたヘルドがその方角へと走り出そうとする。
 遠方より、地を這うような声が響いた。
 次の瞬間大地が激動した。

 視界が揺れる、そう感じる間もなく転倒していた。
 周囲で幾つもの悲鳴が上がる。叫びは無数に重なって響き、そこでは全ての音が飲み込まれかき消されていた。
 痛みと騒音に顔をしかめながらもヘルドは手をつき上半身を起こした。
 震えていた地が徐々にその動きを収めていく。人の倒れた通りの先で、闇夜に浮かぶ白色の建造物が今まさに崩れ落ちるのが見えた。
 轟音が遅れて大気の震えとなって伝わってくる。
 ヘルドは立ち上がり、その方向に一歩踏み出した。
 足元から呟くような声が聞こえてくる。
「神殿だ、神殿が崩れた…。」
 呻きのように繰り返される声。
 道の先に先ほどまであったのは街の中心にあるファル教の神殿だった。
 そしてそれはこの異変の直前に知覚した気配の方向でもあった。
 ヘルドは、神殿へと駆け出していた。


 痙攣する大地の上には何も無かった。
 かつて見かけた壮大な神殿は跡形も無くなり、果てが闇に消えるほどに広い敷地と無数の残骸だけがその痕跡を残していた。
 中心地と思しき領域で時折閃光が瞬く。
 天を駆ける光に映し出されたのは、優に家並みの巨体を持つ怪物の姿だった。
 ―もたらされた、災厄。
 神殿へと向かう石段を上った先で、ヘルドは眼前の光景に言葉を失った。
 人々の集う神殿は崩れ落ちた廃墟と化し、巻き込まれた人々は苦しみの声を上げている。その中心に座る魔物が、黒い瞳で全てを見下ろしていた。
 ヘルドは唇を噛みしめると、無言で再び廃墟の中心へと走った。
 地面は震えを繰り返し、救いを求める声が追いすがる。
 その何もかもを無視して駆け抜け、ヘルドは一人魔物の近くに立った。
 辺りでは懸命の救助作業に混じって散発的に神官が魔物に向け魔法を撃っている。
 闇夜に放たれた光は細い糸のように空に走り、弾けて消えていた。
 ヘルドは彼らから離れた場所に移動した。
 魔物の正面方向で大きく距離を置いて立ち止まる。次いでその手を腰に伸ばしたが、何度か探るように手を動かした後に求める物はもはやここには無いことを思い出して彼は舌打ちをした。
 高価な対価と不釣合いな現実。仕方なく空手のままで両手をかざし、意識を集中させる。
「ルーレ・セア・カイン・ワテル・フェイル大海を支配せし水の王よ、イ・ヴォルド・ホペ我はここに命ずる―」
 呪文を紡ぎながら魔法の形を思い描く。この強大な魔物に致命傷を与えうる力。より鋭く、より深く、より硬く。長き猛き刃。刺し貫くもの。
「―スォル・イシクル氷柱よ貫け!」
 最後の一節を解き放った瞬間、重ねた両の掌の先で大気が凍った。蒼ざめた輝きを見せたそれは瞬く間にその姿を伸ばし鋭い氷柱の形状を形作る。
 人に扱える大きさをはるかに越えた巨大な氷の突撃槍は、そのまま正面へと放たれた。
 だが魔物もまた動いていた。
 首をもたげ低い咆哮を上げる。長い唸りはその足元から大地を震えさせ、形を崩した土が幾層もの壁となって突き上がる。沸き立つ地面は同時に前方へと走り―無数の石の棘と化した。
 決着はほんの一瞬。
 静寂が戻った時、地に伏せる魔物の前には氷柱に貫かれた幾重もの土の壁が立ち並び、ヘルドは逃げ遅れて脇腹を石の棘に貫かれていた。
 開いた口から血が吐き出される。
「がっ…!」
 氷柱は溶け崩れ、土壁に降り注いだ。
 水を浴びた壁が形を壊す。崩壊は氷柱の遠方にも及び、ヘルドを貫く石の棘もまた土へと戻り崩れ落ちた。
 溢れ出した鮮血が地面へと吸われていく。
 ヘルドはその場に仰向けに倒れこんだ。
 しかし横たわりながらも半身を起こすようにして、その傷口に手を伸ばす。
 歯を食いしばりながら素手で傷口の土を荒々しく掻き出し、掌を傷の上にかざした。
「リト光よ…カレ癒しとなり、メ我が手に…。」
 痛みに引き裂かれる意識を繋ぎ、途切れ途切れに詠唱を行う。
 掌に生まれた光はひどく弱々しいものだった。それでも噴き出していた血の勢いが、ゆっくりとではあるが収まっていく。
 ヘルドは首を伸ばし、己の放った魔法の結果を見ようとした。
 だがそこには、半ば溶けた土壁と無傷の魔物がいるだけだった。
 ぎり、と音を立てて歯が噛み合わされる。
「くそ…くそおっ!」
 叫びは血と共に吐き出された。
 震える手で体を起こす。
 遠くから声が聞こえた。傷を負った彼を助けようとする神官の声らしかった。
 しかしヘルドはそれを避けるかのように、傷ついたままの脇腹に手を当てて立ち上がりよろめきながらも魔物とは逆の方向に歩き出した。
 痛みと、それを上回るほどに沸く怒りと苛立ちにその胸を蝕まれながら、彼はそれをこらえて一歩ずつ離れる。
 そして瓦礫の塊を一つ越えて。
 ―横たわる少年を見つけた。


「絶対に嘘だっ!」

 腰を下ろしたヘルドが静かに見守る中、赤髪の少年は意識を取り戻した。
 目を開き辺りを見回す。その先にあったのは見渡す限りの廃墟だけだった。
「…気がついたか。」
 それまで黙っていたヘルドが声をかけると、少年は振り返り驚きの顔を見せた。
 しかしそのままじっと見つめていると、最初は警戒して後ずさったものの、すぐにヘルドに攻撃の意思がないことを悟ったらしくその場で動くのを止めた。逆に彼に向かって尋ねてくる。
「い、いったい何があったんだよ!」
 少年は、何も知らなかった。自らの行った行為もそれがもたらしたものも。
「あれを見ろ。」
 ヘルドは短く答えて少年の背後を指し示した。少年がまた振り返る。
 そこには、低く鳴く巨大な魔物の姿があった。
 ビヒモス。異界に棲まいし大地の支配者。地の魔力を宿す強大なる魔物。―災厄の具現化。
 だが説明をしたヘルドに対し少年が返したのは無視だった。
「―そんなことはどうでもいいだろっ!そうじゃなくて、何であんなのがここにいるんだよ!」
 彼は未だこの魔物が現れた理由さえも分かってはいなかった。
 ヘルドは胸の内に再び沸き始めた怒りを抑えこみながら、ただ事実を告げた。
「お前が、あれを呼び出したんだ。」
 少年は絶句し、次いで首を横に振った。
「―そ、そんなのオレは知らないっ!」
 彼は何も理解していない。故に彼はその罪さえも知らない。
 だが、無知は決して免罪符ではない。
 ヘルドは語り始めた。
「お前が指輪を使った。だから、あれがここに現れた。」
 少年の身動きが止まる。言葉の意味を理解しようとするかのように。
「―そうだ、イリーネは!あいつは無事なのかっ!」
 しかし次の瞬間少年はそぐわない言葉を叫び走り出そうとした。が、足を捻っていたらしくその場にまた倒れる。
 その背にヘルドが問うと、少年は答えた。
「そうだよ、イリーネだ!オレはあいつを助けようと指輪をはめたんだっ!」
 ―その言葉こそが、この災厄の全ての原因だった。
 ヘルドは叫んでいた。
「このバカがっ!」
 少年が怯えた表情を見せる。だがヘルドはそれに構わず、立ち上がると少年の手を掴んで歩き出した。
 半ば引きずるようにして連れ出す。彼の言った「イリーネ」と会わせてやるために。
 再び向かった廃墟の中心では、既に神官たちが力を合わせて対抗したらしく白銀の網に押さえられた魔物の姿があった。
「これが、ビヒモス…。」
 少年が呆然と呟く。ヘルドは答えた。
「ああ。そして、お前が招いた災厄だ。」
 その言葉に少年が反論しようと声を上げたが、それはすぐに消えた。
 目に捉えられるのは崩壊した廃墟と被害を受けた人々。確かにここには災厄が存在していた。
 沈黙していた少年だったが、彼はおもむろに首を激しく振ると再度ヘルドを睨みつけた。
「そんなことよりも、イリーネはどうしたんだよ!答えろよっ!」
 眼前に示されてさえもなお少年は事実を受け入れようとはしなかった。
 その目は真実を見ていない。
 ヘルドは手を延ばした。そして、少年の頭を掴むと力任せにそれと向き合わせた。
「まだ分からないのか!あの魔物がお前のイリーネなんだ。」
 打ちつけられた最後の言葉に、少年の拳が落ちる。
「…嘘だ。」
「嘘じゃない。」
「嘘だっ!」
 少年は絶叫し、自分の頭を掴んでいたヘルドの手を振り解くと駆け出した。
 魔物の横たわる方向へと駆け出し、繰り返し少女の名を呼ぶ。
 それに答えて魔物も声を上げ、大地を震わせた。
 響く轟音に少年は耳を押さえて叫びを上げる。
 黙れと。
 魔物は鳴くのを止めた。
 そして再び静寂が戻る。
 少年の手が、耳から離れた。
「…ようやく分かったか。」
 背後から見ていたヘルドが彼に声をかける。
 少年は、もはやその言葉に抗おうとはしなかった。嘘だ、と辛うじて呟く言葉も虚ろだ。
 うつむく彼に向かってヘルドが指輪を求めた理由を問うた。
 口にされた答えは、『永遠の命を保つ指輪』を用いて病の少女イリーネを救いたいというもの―一つの願いだった。
「…だが、あの指輪はそんなものじゃない。」
 ヘルドはその言葉を、彼の意志を否定した。災いをもたらした少年に全てを知らせるために。
「あれは死者を忌まわしき形で蘇らせるための品だ。死体にあの指輪をはめることで、命令を聞く不死の魔物としてその肉体を使うための道具に過ぎないんだ。」
 廃墟の死体に残されていた、幾つもの指輪の残骸に刻まれていたのは命令の呪文だった。指輪をはめられてそこに宿る闇の魔力により道具としての忌まわしき生を与えられた死体。
 それは、かつて少女だった魔物もまた、同様だった。
「お前の知っているイリーネはもうどこにもいない。あそこにいるのは、イリーネという名を覚えた一匹のただの魔物だ。」
 全てを聞いた少年はその場に膝をついた。
 力なく座りこんだ彼の背に、なおもヘルドは言葉を続ける。
「それがお前のしたことだ。」
 あってはならぬ物の窃盗。
「お前が指輪を盗み出したがために、この災厄が生まれた。」
 指輪によって生まれた災厄。
「…やめろ。」
「お前がここに指輪をもたらしたがために、神殿の人間が犠牲になった。」
 悪しき力が人々にもたらした犠牲。
「やめろよ。」
「お前が指輪を使ったがために、その娘は死体さえも残らない死を迎えたんだ。」
 闇が与えた、呪われし死。
「やめろーっ!」
 少年が絶叫した。
 次の瞬間、ヘルドの目の前に汚れた石が飛んできた。
 庇う間もなく額に当たり、一瞬意識が途切れる。
「お前に、何が分かるんだっ!オレはただあいつを助けたかっただけなんだ―あいつに、もう一度笑ってほしかっただけだったんだっ!」
 流れる血を押さえてヘルドが顔を上げる。
 そこには走り去っていく少年の後ろ姿があった。
 そして彼が呼びかける間もなくその姿は消えた。
 ―少年は、逃げていった。
 後には暗い闇だけが残る。そこには見渡す限りの無残な廃墟が広がっていた。
 また血に濡れた手を下ろし、ヘルドは一人呟いた。
「…愚かな。」
 悪しき力を用いて災厄をもたらした罪人。
 ヘルドはそう、彼に向けて言った。


「助けようと思ったんだ。」

 それから、どれぐらい経ったのだろうか。
 背後から聞こえた足音にヘルドが振り返ると、神官らしい一人の若い女性が驚いた顔で彼を見つめていた。
 怪我はないか、血と土に汚れた白服に身を包んだ女性は彼にそう問いかけてきた。
 ヘルドは否を答え首を横に振った。押さえた脇腹からはまだ血が滲んでいたが、致命傷ではない。人の手を借りなくとも自力で処理できる範囲だった。
 そうして彼女の助けを断った彼は立ち上がり、移動しようとした。
 そこにもう一つ言葉が飛んできた。
「すいません。ハーフキャットの少年を、見てませんか?」
 ヘルドは反射的に振り返った。女性が一瞬戸惑いの表情を見せたが、それに重ねるように彼は尋ね返した。
「少年?どういう格好だ。」
「ハーフキャットで、短い真っ赤な髪をしています。身長はこれぐらいです。」
 女性が示した身の丈は、つい先ほどまでここにいた少年のものと同じだった。
 一瞬迷った後、ヘルドは一部の事実だけを簡潔に伝えた。
「少し前までここにいたが、どこかへ行ってしまった。」
 女性の顔に不安と安堵が入り混じる。無事を喜び、行方を心配するかのようだった。
 ふとヘルドは改めて女性を見つめた。二十歳を越えるだろうか、まだその顔は若い。また丸い耳はまぎれもなく彼女が人間であることを示している。
 何故彼女は少年のことを尋ねたのか。
 かすかに疑問に思ったヘルドはそれを聞いた。
「知り合いなんです。いつも、ここに来てましたから。」
 女性はそう答えた。
 少年は、ここで少女を助けるために指輪を使った、そう言っていた。
 次の瞬間ヘルドは女性に対して詳しい話を尋ねていた。
 ―少年の名はローヴェ。ハーフキャットのまだほんの子供だった。彼はここにいる一人の少女を毎週毎週見舞いに来ていた。少女の名はイリーネ。街の商人の娘であり、病に倒れてこの神殿内の療養所に来た。二人はとても仲の良い友達だった。しかし病の治療法は見つからず、少女は今や昏睡状態に至っていた。それでも少年は彼女の見舞いを続けていた。そして今日もまた、異変の起こる直前にここに来ていたという。
 ヘルドは無言でその話を聞いた。
 少年は必死に叫んでいた。彼が呼んでいた名は少女のものだった。彼が指輪を使ったのもその少女を助けるためだった。
 だが、もたらされたのは悲劇にすぎなかった。
 ―悪しき力がもたらすのは災厄のみ。故に、それは使わせてはならぬ。
 神殿の崩壊後から行方知れずになっていることまでを話し終えた女性が、沈黙していたヘルドの様子に不安げな顔を見せた。
 ヘルドは、呟いた。
「愚かな話だ。」
 その瞬間目の前の女性の顔色が変わった。
 思わぬ反応に初めて自分の発した言葉が表した意味を悟り、ヘルドはわずかに気まずさを覚える。
 そんな彼に向かって女性が言ったのはその直後だった。
「―あの子は、ただ友達を助けたい、少しでも支えになりたいと思って来ていたんだと思います。たとえそれには病を癒す力がなくても、決して無駄なんかじゃないです。」
 それは叫びだった。そこにはつい先ほど少年が放っていたのと同じ響きが宿っていた。
 真っ直ぐに自分に向けられた彼女の瞳にヘルドは強い圧迫感を覚える。震える語尾がそこに込められた想いを伝えていた。
「そういう純粋な思いは、絶対に愚かなんかじゃないはずですっ!」
 ―あいつに、もう一度笑ってほしかっただけだったんだっ!
 二つの言葉が瞬間、重なった。
 ヘルドは答えない。その口からは何の言葉も出なかった。
 言い終えたところで、女性の表情が再び変わった。先ほどまでのひたむきな眼差しは瞬く間に消えて途端に赤面しうつむく。そのまま急に頭を下げた。
「すいません、一人で勝手なことを言って…彼のことを教えて下さって、ありがとうございました。失礼します。」
 それだけ言って深く礼をすると、彼女もまた足早にヘルドの前から去っていった。
 後に残されたヘルドはまた一人で佇む。
 その視線の先にあるのは、変わらず広がる廃墟だけだった。


 夜は未だ明けない。土地を照らす光は少なく、付近にはまだ暗闇がある。
 遠くから聞こえてきた低い鳴き声にヘルドは目を向けた。
 光の網に捕らわれた魔物が、苦痛の声を上げる。それに答えるようにまた大地が震えた。
 立ち尽くしていたヘルドは、片手を持ち上げるとその手に灯りを呼ぶべく呪文を唱えようとした。
 だが言葉は放たれなかった。
 掌を虚空に差し出した姿勢のまま、彼はゆっくりとその手を握る。

 ―それは人を蝕む。闇の力を人に触れさせてはならない。
 感じるかすかな痺れと疼きは魔法の乱発によるものだ。貼り付いた血で掌は赤く染まっている。
 この手で刃を作り、この手で少年を真実へと向き合わせた。
 ―それは災厄をもたらす。消滅させるべし。
 間違いはなかった。犯した罪はここに現れている。彼はそれを知らねばならなかった。
 この悲劇をもたらしたのは彼の行動だったのだから。
 故郷を離れ人里に出る時に長より授かりし言葉は、誓いとして胸に刻まれている。
 それは人を救うためであり、それは正義である。故に、守るべき誓い。
 ―忘れるな。守るべきは……

 ヘルドは握りしめた拳を振りほどいた。指は強張ることなくいつものように動いた。
 遠くで放たれる光がか細く揺らめく。
 彼は手を下げたまま、その光源に背を向けて歩き出した。

「―もう一度笑ってほしかった」

 その足が止まる。
 もう一度だけ、彼は振り返った。
 光は輝き続けている。
 そこに照らし出されているのは神官だけでなく、付近より集ったらしき冒険者やその他の人々の姿もあった。恐らくは救援を求められて加わったのだろう。
 ―そこにあるのは意思。

 その光景を見つめ続けていたヘルドの手が再び強く握られる。
 彼は、見えた人々に向かって歩き出した。

                            ―end.




〈あとがきのたぐいのおまけ〉
 ―かくして、「Trace of Feeling」は終わります。そして指輪を巡る全ての物語もまた、ここに終幕しました。
 さて。どーも毎度おなじみでございます、いづみでーす!(明)ご承知の方も初対面の方もみんなまとめて、今後ともよろしくでございます。
 とりあえず新歓号ってことでまずはささやかな自己紹介から参ります。ファンタジーに惚れこんで早や幾歳。性懲りもなく駄文をたらたらと、長さだけは人並みに書き続けて気づけば今に至ります。ありがち・陳腐・つまらないとのツッコミも何のその(泣)、「ライトなファンタジー」を担当し「へっぽこモノカキ」を自称するは、『いづみ』と申す者でございます。どうぞお見知りおきを、エサの一つでも投げてやって下さい(え)。
 前置きを済ませたところで(長)、それでは今回の作品の話に入りますか。…一年間に渡り書き続けられた『永遠の命を保つ魔法の指輪』を巡る物語。この最後の話において登場人物となったのは、また異なる思いをもって指輪を追い求めた男、来訪者にして全てを見届けた彼でした。
 …んでいきなり言い訳から入ります(何)。ていうか言わせて下さい、「それぞれ10Pをほぼ使い切って語られた物語を、同じ10Pの枠内で全部まとめきれるわけがないっつーの!(叫)」―主張は以上。というわけでいろいろとカンベンして下さい(涙)。展開が速かったり描写がすっ飛ばされたり何を言いたいのかよく分からないのも、ここに原因の一つがあるんです。多分。―いや残りは作者の筆力と構成力とその他いろいろにあるんですが(沈)。でもあとは何を言っても言い訳の塗り重ねになるので省略します。ぐすん。…あ、新人の方へ。今言った「指輪を巡る物語」は、一つの連作として私が昨年度の一年間で書いたものです。興味を持った方は会誌のバックナンバーかサークルサイトのメイン展示室を参照のこと(宣伝)。
 愚痴はほどほどにしてそろそろ締め括りといきましょう。何はともあれ、この話を読了して下さった全ての方へ。―ありがとうございました。そしてこんな微妙な出来の作品をお見せしてすみませんでした(死)。って普段はもっとまともかと言うとそうとも言えないのが余計に悲しいのですが(おい)。まあほんの少しでも楽しんで頂けたのならば、作者として大変嬉しく思います。
 それではまた次の作品でお会いしましょう。さようなら〜。


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