いづみ
―力があるから、皆、傷つき、苦しみ、命さえ落とす。
そのような「力」など…。
磨かれた白木の机の上に、二つの物が置かれている。
並んで置かれたそれは翼を意匠して模られた掌大の装飾―一つは白き宝玉を、もう一つは黄の宝玉を抱いた金色の聖印だ。
しかし造りは同じながらもその姿は大きく異なっていた。白き宝玉を宿した聖印は傷一つないのに対し、黄の宝玉を宿した聖印は表面に無数の傷を負っている。
窓からの陽光を受けて、その二つの聖印は異なる輝きを見せていた。
―不意に、その光が翳る。
差し込んだ影の上、白手袋に覆われた細い手が聖印の一つを取った。
白い宝玉を中心とした金色の飾りが、簡素な修道着の胸元へと取り付けられる。
傍に立てかけられた鏡に映るのは濃い灰色の髪を一つに結んだ女性の横顔だ。化粧を一切していないその顔はともすれば年若い少女にも見えるほどに幼い。
伏せられた目が開き、その視線が再び正面へと向かう。
再度手を伸ばした女性は置かれていたもう一つの聖印に触れた。
一瞬、何かを感じたかのようにその動きが止まる。だが次の瞬間にはその聖印を取ると再び胸元へと運んだ。
先ほどの聖印の隣、体の中心線上に置かれた右手。その上にそっと左手も重なる。
女性は目を閉じると、小さく唱えた。
「―光よ。どうか、力によっ(イ・ウォルド・アセ・リト・ト・グァルド)て傷つく者が無きように(・アル・フルト・ツヘ・ビィ・フォルセ)―。」
ただ一言だけを口にしてそのまま祈りを捧げる。
―六年間、一度も絶やしたことのない祈りを。
黙祷の後女性は目を開くとかざしていた聖印をそっと机に戻した。
懐かしむような、しかしまたどこか哀しみも帯びた瞳でその輝きを見つめる。
それから女性は顔を上げて窓の方に振り返った。
眩しい朝日がその顔を白く照らす。窓を抜けた風が耳元の髪をなびかせ優しく撫でて消えていく。
陽光に照らされた体。白い服の胸元で、唯一つ聖印が光る。
目を細めてその全てを受け止めていた女性は、瞬きを一つするとそこから動き出して身支度を始めた。
置かれた聖印だけが、変わらぬ鈍い輝きを見せていた。
大陸東部のスロウドの街に位置するファル教の一神殿。
女性、イマテューレ・エフェクティーオもまたここで日々の生活を送る一人の神官だった。
彼女がここに来たのはもう九年も前のことになる。
ごく普通の家に育った彼女が神に一生を捧げることを選んだのは、一つの出来事がきっかけだった。
多くの兄弟姉妹の中で一人体の弱かった姉が、ある日、悪化した病に倒れた。家族はいつものように看病したが、高熱が下がらずこのままでは命に関わると思われた。
両親は急いで神殿に赴き、神官に治療を依頼した。
やってきた神官はその癒しの力を用いて、すぐに彼女の熱を下げ、病の悪化も止めた。
これによって姉の命は救われた。
このことに感銘を受けたエフェクは、自分も神官になろうと思い、まだ成人前だったにもかかわらず今から神殿で勤めたいと両親に訴えた。その強い願いを聞いた両親は比較的あっさりとそれを許し、彼女を神殿へと送った。
彼女はかつて姉が世話になった施療院で勤めることを希望したが、成人まではまず別の高位の神官の下で修行することを命じられた。
そしてエフェクは師、エクハウストと出会う。
世界を創りし二者の一つにして人が属する者である『光』に仕えるファル教の神官。彼女もそうなるべく、彼の下でその教えを学ぶ日々が始まった。
様々なものを見て、様々なものに触れ、確かな形で己の力を他者のために使う。
そのまま二年が経って成人を迎えた後も、彼女は引き続き彼を師としてその傍にい続けた。
―しかし、その充実した日々はある日唐突に終わりを告げる。
古き友の冒険者に招かれて旅立った師。だが彼はその旅先で命を落とした。
そして、エフェクは一人残されることになる。
導き手は失われた。が、それでも彼女は自らこの神殿に残ることを選んだ。
一つの誓いを胸に抱いて。
茜色の夕日が西の空にかかっていた。
「それでは、今日も皆さんをよろしく頼みます。」
「はい。お疲れ様でした、クーレ様。」
施療院の一角、僧侶の控え室でエフェクは他の神官らと共に深く礼をした。
彼女らに命を告げて帰り支度をしているのは、この施療院の現在の長であるクーレである。
六十歳を越える彼女は、その優れた魔力と厳しくも誠実な人柄ゆえに既にかなりの高齢でありながら院長の地位を勤めていた。
しかし体力の衰えまでは致し方ない。この日も、一通りの治療を済ませた彼女はその後の患者の世話を他の神官らに任せて家族の待つ自宅に帰るところだった。
「―ああ、エフェク。」
その最中。クーレは片づける手を止めるとエフェクを呼びつけた。
「何でしょうか、クーレ様。」
「少し、話があります。…他の人たちは仕事に戻るように。」
クーレのその一言で残りの神官たちはすぐにこの場を離れた。
人払いされた控え室にただ一人残される。その唐突さに戸惑いを感じつつ、エフェクは尋ねた。
「話とは何でしょうか?」
「慌てるものじゃありません、エフェク。」
短くも鋭い一言。エフェクは小さく頬を赤らめると、姿勢を正して次の言葉を待った。
「そう長い話でもありませんから。…もう、六年が経ちましたね。」
穏やかな物言いだった。だがその言葉に、エフェクはかすかに身じろぎした。
何が、と聞くまでもなくその内容は分かっている。
―そして続くであろう言葉も。
下ろして軽く組んだ両手の指先が少し強張る。
「はい。」
返ったのは、たった一言の、しかし硬質な響きを宿した返事だった。
正面に立つクーレの顔がわずかに翳る。
「本神殿勤めの神官の数は不足しています。あなたなら、きっと務めを果たすことができる。」
「私は、この施療院を離れるつもりはありません。」
相手の言葉を遮るようにしてエフェクは答えた。
きっぱりと、迷いのない返事。…しかしその視線は正面のクーレに向かうことなく伏せられていた。
「…私は元々ここで働くことを希望して、神殿に来たのですから。」
六年前、エクハウストが亡くなった後。
それまでは彼の下で彼に付き従って神官としての任務を果たしていた。
しかし彼が亡くなったことで師を失ったエフェクは、当初の志望でもあった施療院で勤めることを選んだ。
そしてそれは叶い、再び彼女の神官としての日々は続くに見えた…のだが。
彼女の発言に深くうなづきながらも、クーレは言葉を返した。
「ええ、それは伺っています。ですが他に人手が足りないのも事実なのです。」
半年ほど前。任務の最中に相次いで二人の神官が命を落とした。
この街における神殿の規模はそれほど大きくはない。六年前のエクハウストの死、更にここに至っての二人の神官の死。これによって本神殿で働く神官の数は大きく不足することになった。
その人材の補充に当たって候補になったうちの一人が、エフェクだったのだ。
だが、エフェクは首を横に振った。
「しかし…私は。」
辛うじて絞り出すかのようなか細い返事。
「私には……できません。」
うつむき、必死に答える彼女の言葉にクーレは哀れみに満ちた目を向ける。
しかし目を伏せる彼女がそれに気づくことはない。
「…そう。」
何故とは聞かない。
―聞いたとしても答えが返ってこないことはもう十分に分かっていたからだ。
「申し訳ありません。」
エフェクがいつものように小さく頭を下げる。
その姿を見つめるクーレの顔にもまた苦しげな表情が浮かぶ。
しかし高位の神官としての立場は、彼女に対して特別な哀れみをかけることを許さなかった。
「…やはり、戻るつもりはないのですね。」
「―はい。」
再度の短い一言。頭を下げたまま、エフェクは答えた。
本神殿への任官の対象としてエフェクが選ばれたのにはそれなりの理由があった。
彼女の師エクハウストが元々本神殿で勤めており、その彼に仕えていた間はエフェクもまた本神殿で働いていたからだ。
彼の死によってエフェクは施療院に移ったが、神殿側としては実務経験もある彼女に再び本神殿に戻ってほしいと考えた。
だが、神殿側からの再三の説得にもかかわらず彼女は本神殿への異動を受けようとはしなかった。
その理由さえ黙して語らぬままに。
「…それでは失礼するわ。また明日。」
「お気をつけて。」
話を終えたクーレが別れの言葉を告げてエフェクに背を向ける。エフェクもまた深く礼をしてその姿を見送ろうとした。
その時、クーレが振り返った。
体を起こしたエフェクがまだ目の前にいるクーレの姿を見て戸惑いの表情を見せる。
そんな彼女に対し、クーレはその目を見つめて静かに言った。
「あなたの行く道にどうか光の加護があらんことを(イ・ウォルド・アセ・リト・ト・ベ・ウィツフ・ヘ・ウィル)…。」
年老いてなお鋭いその瞳に慈愛の色が宿る。
一瞬呆然とするエフェク。
その顔に微笑みかけて、クーレは部屋を出ていった。
次の瞬間我に返ったエフェクはその背中に慌てて頭を下げた。
「―ありがとうございました。」
神殿側からの説得を断り続けた理由。
彼女はあくまで施療院での勤めが望みだからと言い続けた。
無論それは建前に過ぎない。しかし彼女は決して本当の理由を口にすることはなかった。
自分以外に誰もいない部屋の中、閉ざされた扉を前にエフェクは立ち尽くす。
右手がその胸元へと移り、やがて聖印に触れた。
ゆっくりとそれを握りしめる。
「…私は、決めたんです。」
呟く下で、締めつけられた黄金の聖印が小さくきしんだ。
―その秘められた誓い故に。
小さな灯りが夜の闇に浮かぶ。
石造りの狭い廊下を、修道着をまとった小さな姿が歩いていた。足取りに合わせて灰色の髪がかすかに揺れる。
光は、手にした杖の先端に灯されていた。
日が暮れてから二時間。エフェクは眠る患者らの見回りをしていた。
消灯後、患者らがきちんと眠れているか、症状の悪化で苦しんでいないか、またまれにではあるが施療院からの脱走がないかを見て回るのがその仕事である。
静かな足音は石床に吸い込まれてほとんど響かなかった。
廊下には同じ造りの扉が幾つも並んでいる。エフェクはその一つをそっと押し開いた。
かざした光の向こうには、静かなベッドが並んでいるばかりだ。
その全てを一通り眺めたところで、安堵の息をついてエフェクは扉を閉めた。
今、この施療院で活動している人間はほとんどいない。患者の大半はもう眠りについており、夜の見回りを担当する神官の数も多くはない。見舞い客の訪問も夜間は制限されているのだが…これについては黙認状態にあった。
患者が眠っているであろう夜間にわざわざ訪れるのは、日中には来れないような事情があるからでもある。それでもなお患者の身を案じてその傍にいようとする願い―それを無下に断ることはできない。
よって、夜の見回りを任された神官はその責任の下で見舞い客の訪問を密かに許すことが暗黙の了解としてこの神殿にあった。
そして今夜もまたエフェクは一人の少年を迎え入れていた。
毎週のようにやってくるハーフキャットの少年。病で倒れたある少女が一年前にここに運ばれて以来、この少年は彼女の元に通い続けた。
その病が治療できないものと判明し、いつしか家族さえほとんど見舞いに現れなくなり、今や進行した病のために少女が意識すら失っていても、それでもなお少年はここに来ている。
エフェクは廊下を振り返った。
後方、ずっと彼方。訪れた少年を案内して少女の元に連れていき、自分が戻ってくるまでの間はここにいてくれて構わないと言っておいた。
見回りはもう大半が終わり残る部屋もあとわずかだ。そうしたら彼の元に戻り、帰らせなければならない。
夜は長い。…多少の遅れなど構わないだろう。
彼の元に残したランプの代わりである光る杖を手にして、エフェクは再び廊下を歩き出した。
―その刹那、大地が鳴動した。
轟音と共に地面が激しく揺れる。
エフェクは悲鳴を上げ、その場所に跪いた。
大地の揺れは立っていられないほどに激しい。周囲を囲む石壁にも見る間に亀裂が走っていく。
思わずかざした杖の向こうで、それはついに天井へと達した。
響いてくるのは大地の叫びだろうか、石の砕ける音に混じって低い音が耳鳴りのようにこだまする。
そして、天井の一角が大きく揺れると同時に音を立てて砕けた。
「―光よ我を包む壁となれ(イ・アセ・リト・ト・コヴェル・メ)っ!」
一声叫びエフェクはその場にうずくまる。
次の瞬間落下した石塊がその姿を覆い隠した。
ほどなくして鳴動は収まった。
杖にしがみついて身を縮めていたエフェクは、そっと頭を起こした。
正面には穏やかな光が広がっている。
周囲を見回すと、淡く光を放つ壁が支えとなって瓦礫の下に小さな空間を保っていた。
安心すると同時に光が弱まり、瓦礫がその微妙なバランスを崩す。
エフェクは慌てて杖を掴み直すと自分を守る障壁の維持に意識を集中させた。
再び光が強まって、崩れかけた瓦礫が安定を取り戻す。
落ち着いたところでエフェクは改めて周りを見回した。
魔法による障壁の発動には何とか成功したらしく、小さなドーム上の空間が瓦礫の中で保たれている。しかし光に照らされた周囲は完全に瓦礫で埋め尽くされていた。
外には、出られそうにない。
「…どうしよう。」
困惑し、呟いた矢先。
あの低い耳鳴りと共に再び大地が激しく震えた。
「キャアッ!」
思わず悲鳴を上げながらも、とっさに杖を握りしめて障壁の維持に再度意識を集中させる。
数回の鳴動が繰り返された後、ようやく静寂が戻ってきた。
見上げた瓦礫の様子は一変している。
この振動でまた多くの瓦礫が崩れたらしく、辺りを囲む形は様変わりしていた。
そしてその一角に闇が広がっている。
何とか、通れないこともない大きさだった。
エフェクは杖を寝かせるとゆっくりとその先に差し入れた。
杖の先端に触れた光の壁が柔らかい布のようにその形を伸ばしていく。
障壁を押し広げながら、エフェクはゆっくりと瓦礫の下をくぐっていった。
大きな魔力の消耗に鈍い頭痛が走る。
頭を抱えつつもくぐり抜けると、そこには、また闇が広がっていた。
何もなかった。
穴を通り抜け、数歩離れたところで障壁を保っていた魔力を解除した。
後方で支えを失った瓦礫が音を立てて崩れる。
だがエフェクはそれを気にすることもなく、その場にぺたりと座り込み目の前の空間を見つめていた。
―何もなくなっていた。
今までいた、施療院は跡形もなくなっていた。
目の前にぽっかりと広がる闇。目が慣れるにつれて、小さな光が見えてくる。
そこにあったのは夜空だった。星の光が遮るものなく落ちている。
施療院の石壁も、神殿の建物も、何もかもがなくなっていた。
「そんな…?」
突然の出来事が理解できず、その場から立つこともできない。
それでも視界の端に、徐々に瓦礫の姿や残る石壁の姿が捉えられてきた。
突如襲った大地震。それが、施療院も、神殿も、何もかもを跡形もなく消し去った。
呆然とするエフェク。不意にその視界が、一瞬明るくなった。
続いてまたあの耳鳴りと共に大地が揺れ動く。
立てていた杖が転がり、エフェクは反射的に追った。
掴んだところでふと振り返る。
そして初めて、エフェクは「それ」を目にした。
そこには闇があった。
夜空の星がその空間だけ切り取られている。
漆黒の闇、いやかすかに青ざめているようにも見える色合い。
遠くからの叫び声と共に夜空に一瞬の光が走る。
それに照らされるようにして、ようやくその姿が浮かび上がった。
山のような巨体。見たこともない巨大な獣が、その場所にうずくまっていた。
獣の身じろぎと共に大地が揺れる。
低くあるがあまりにも大きな耳鳴りに、エフェクは思わず両手で耳を塞いだ。
そうしてようやく気づく。これは耳鳴りなどではなく、あの獣の声なのだと。
そしてこの地震もまたこの獣の叫びと共に生じているものだと。
再び声と地震が治まった。
事実の一部が把握できたエフェクは、ようやく立ち上がることができた。
そして辺りを見回す。
―そこにあったのは、災厄の跡だった。
崩れた建物。その周囲を走り回る人々の姿。叫ぶ声。空を走る光。地に響くざわめき。広がる荒地。泣き叫ぶ悲鳴。
そしてその先に存在する、巨大な獣。
エフェクは身を震わせた。
本能的に感じ取ったのだろうか、その大きな「力」を。
目の前の獣が起こした災厄。その力、そしてその被害に対してエフェクは身を震わせていた。
恐怖を感じていた。
そしてその最中にも、声が耳に届いた。
泣き叫ぶ声、くぐもった悲鳴、助けを求める声が。
エフェクは我に返ると、落とした杖を掴み上げた。
ここはどこなのか―施療院だ。瓦礫の中、多くの患者がこの地震に巻き込まれて被害を受けているはずだ。
助けなければいけない。自分の力は、そのためにあるのだから。
そう思い、エフェクは目の前の獣に背を向けて走り出そうとした。
「―エフェク!」
だが、それを遮るかのように一つの声が響いた。
名を呼ばれたエフェクは反射的に振り返り、そして目を見開いた。
そこにはクーレが立っていた。
自宅に帰ったはずの彼女だったが、急いでこの場に駆けつけたのだろうか。
エフェクは安堵の表情も露わに答えを返した。
「クーレ様!よかった、助けて下さい!恐らく瓦礫の下にまだたくさんの人たちがいるはずなんです!」
そう訴え、走り出そうとする。
―だが。
「待ちなさいっ!」
鋭い声が、それを制した。
振り返るエフェク。
彼女が見たのは、厳しい目をしたクーレの姿だった。
「クーレ様、何を…?」
「被害者の救助は後です!あなたもこちらに来て魔物の確保を手伝いなさい!」
クーレの目には一点の曇りもない。
だがエフェクは一瞬、その言葉が理解できず立ちすくんだ。
「え…?」
「何をしているのです。さあ、早く!」
クーレが一歩踏み出し、エフェクの手を取ろうとする。
しかしその手は届かなかった。
意識しての行動ではない。しかしエフェクは確かに、一歩後退してその手を避けていた。
「エフェク?」
差し出した手の距離に、クーレが問いかける。
その言葉、その目にさらされてエフェクは身を強張らせた。
現在の自分の師にあたるクーレ、その言葉に逆らうつもりはない。
だが伸ばされた手を受け取ることはできなかった。
「どうしたのです、エフェク。」
再度の問いかけ。
真剣な目が自分を見つめる。
気高い光。迷いのない―厳しい、光。
「わ…私は、行かなければならないんです。」
震える声でエフェクは答えていた。
自分が何を言おうとしているのか、それを完全に把握すらできないままに。
「エフェク…?」
クーレが更に一歩歩み寄ろうとする。
次いで聞こえた足音は二つだった。
踏み出したクーレと、一歩下がったエフェクと。
「あそこにも、あの瓦礫の下にも、苦しんでいる人がいるんです。私はそれを助けないと、助けないといけないんです!」
周囲の廃墟を前にして、エフェクは叫んでいた。
悲鳴が聞こえる。石の下、瓦礫の中、崩れた施療院から助けを求める声が。
あそこには無数の患者たちがいる。毎日世話をしてきた人たち。言葉を交わし、笑顔を見せた相手。つい数時間前も、あの少年に至ってはつい数分前にも話をしたばかりだというのに。
見覚えのある顔が幾つも脳裏に浮かんだ。眠る横顔が、微笑みが。
―それが血と苦痛に歪んでいく。
見捨てることなど、できない。
後退した拍子に足元の石が動き、倒れそうになる。その体を何とか杖で支えた。
その姿を見ていたクーレは訝しげな顔をしていたが、突如、何かに気づいたかのように目を見開いた。
「もちろんです、だからこそそのために今はあなたの力が必要なんです!」
そう答え、エフェクの元に駆け寄る。
その手は一瞬で捉えられた。
細く、骨ばった手が汚れのない白手袋を掴む。
しかしエフェクの震える手はそれを振り解こうとした。
「私は皆を助けに行きます、だから、クーレ様たちであの獣を抑えて下さいっ!」
そう叫び、掴まれた腕を振る。
だが老いた小さな手は決して離れなかった。
「いいえ、あなたの力もまた必要なのです。エフェク、こちらに来なさい。」
「離して下さいっ!私は…!」
身を振って逃れようとするエフェクの様に、クーレの表情が険しくなる。
それでもなおエフェクは必死になって彼女の手を逃れようとしていた。
「どうしたのです、エフェク!」
「私はあちらに向かいます!どうか、皆さんで…!」
「エフェク!」
クーレが声を上げたその時。
「―嫌ですっ!」
最後の叫びと共に、大地が震えた。
瞬間、クーレの力が緩む。
均衡していた力が突然崩れたことで、二人はそれぞれバランスを崩した。共にその場に倒れこむ。
世界が震える中。
顔を上げたエフェクは、うずくまったクーレの肩が赤く染まりゆくことに気づいた。
振動が消えていく。
立ち上がったエフェクは、慌ててクーレの元に駆け寄り跪いた。
すかさず杖をかざしてその傷を癒そうとする。
だが次の瞬間、その杖は押し退けられた。他ならぬクーレ自身の手で。
戸惑うエフェクの前でクーレが身を起こす。
「この程度の怪我など、自分で治せます。…それよりも、あなたは早く向こうに行きなさい。」
「い…で、できません!」
エフェクは首を横に振った。
クーレはその目の前で傷口を逆の手で押さえ短く呪文を口にした。かすかな光と共に出血が治まる。
だが、エフェクは気づいた。それが完全な治癒ではなくあくまで応急処置程度の技でしかないことに。
「エフェク、何故です。」
クーレが顔を上げてエフェクを見つめる。
その真剣な瞳、真っ直ぐに自分を見つめてくる瞳にエフェクは目を背けそうになった。
だがその肩に触れたクーレの手が、それを許さなかった。
「何故あなたは、その力を使おうとしないのですか?」
見覚えのある瞳。
かつて、師が見せた瞳。
迷うことなくその力を使う彼が見せていた瞳。
だが、彼は―。
「私は―。」
言葉が出てこない。
答えはある。たった一つ、だが譲れないものが。
あの時誓ったこと。自ら決め、決して破らなかったもの。
答えは分かっている。だが、それを言葉にすることがどうしてもできない。
「エフェク。もう一度命じます。今すぐ向こうに行き、魔物の拘束に参加しなさい。」
「で…できません。」
「命令です!」
「できませんっ!」
叫んだ拍子に、いつの間にか滲んでいたらしい涙が目尻から流れ落ちた。
泣くような理由などどこにもないはずなのに。
何故自分は涙を流したのだろう。何故、掴まれたこの肩が痛いのだろう?
「―エフェク。」
肩を掴む手が、緩む。
エフェクは顔を上げた。
そこには、厳しいながらどこか慈しむような目で自分を見つめるクーレの瞳があった。
「あなたは、何を―恐れているのですか。」
低い耳鳴り。
大地が、痙攣を繰り返す。
「私は―。」
答えようとした時、クーレの体が傾いだ。
思わず手を伸ばす。
しかしクーレは、自分で大地に手をつき体を支えた。
揺るぎもしない瞳で彼女を見据える。
「あなたには力がある。その力を、使いなさい。」
「私は―私には、そんなこと、できません。」
「いいえ。できないのではない、やるのです。」
「無理です!私、なんかに…。」
目を伏せ首を振るエフェク。
その両肩が、突然掴まれた。
「何を恐れているのですか!それが、あなたがやらなければならないことなのですよ!」
思わず顔を上げたエフェクは、そう告げるクーレの真剣な表情を目の当たりにした。
だが次の瞬間、クーレは身を折って咳き込んだ。激しい運動と叫びに、年老いた体の方が先に拒否を示そうとする。
その全てを目の当たりにしたままエフェクは動けずにいた。
遠くから聞こえる声。呻き、苦しみ、助けを求める声。
―そして魔物に立ち向かおうとする神官たちの声。
「私には、できません…。」
それでもなお、エフェクは呟いた。
するとクーレは咳き込んだまま立ち上がった。
そのまま座り込んでいるエフェクの腕を掴み、歩き出そうとする。
明らかに苦しげなその様子に、エフェクは引かれるまま立ち上がり歩き出していた。
「逃げてはなりません。」
「そんな…!」
違う、と言おうとした矢先、クーレが振り返ってエフェクを見つめた。
「あなたは何のために施療院に来たのですか。」
「―苦しむ人を、助けたかったからです。」
この問いには、迷うことなく答えられた。
そこにクーレの言葉が続けられる。
「ならばその力を使うことを恐れてはなりません。」
腕力があるわけではない、だが自分の腕を引くクーレの手は確かに強かった。
その意志が痛みとなってこの腕に感じられる。
しかしなおもエフェクは抗おうとした。打ち消すように、否定するかのように激しく首を振って訴える。
「それは―私はただ、人々を助けたいだけなんです!」
「ならばその力を使わなくてどうするというのです!」
クーレの言葉と同時に夜空に閃光が走った。
それは、魔物に抗おうとする神官が放った魔法の光。
「私がしたいのは戦いじゃない、助けなんです!」
あの耳鳴りが響き、大地が震える。
「助けるためにこそ力が必要となるのですよ!」
重なって聞こえる幾つもの悲鳴。
繰り返される争い。それが、また苦しみを広げていく。
痛みが、傷が、失われる生命が耳を覆いつくす。
エフェクは、叫んだ。
「―力は、助けになどなりませんっ!」
次の瞬間、強引に腕が引き寄せられた。
思わずその体が前に倒れそうになる。
その胸元を押しとどめるように、クーレの手が伸びていた。
「力なき言葉になど、何を為すこともできないのです。」
骨ばった指が、胸元を滑る。
止まった先。そこには、鈍く光る聖印があった。
「守るために力は存在する。―それは癒しだけではない。時には、敵を討つ刃とならなければならないのです。」
「…私には…。」
力なくエフェクが呟く。
そこにクーレは囁きかけた。
「できます。あなたにはその力がある。彼の元で学んできたはずです。」
「―!」
その言葉を耳にした瞬間、エフェクは思わず彼女の手を弾いていた。
驚くクーレに向かって叫んでいた。
「それでも、師は、エクハウスト様は亡くなりましたっ!力など…力のせいであの人は亡くなったんです!」
―旅立ちの時。
何故行かなければならないのかと問うた自分に向かって、師はこう答えた。
「悪しき力より皆を守るためだ。」
旧友たる冒険者の依頼で共に旅立つことを決めた師。
それは、彼らを守るためだとエクハウストは口にした。
しかしそれが建前でしかないこともまた彼は教えてくれた。
彼が旅立った真の理由―それは、悪しき力を消し去るため。
冒険者が向かった屋敷、その主の魔道士は一つの品を作り出したという。
『魔物を作り出す呪われし指輪』
その闇の力がもたらすかもしれない悲劇―そんな、「可能性」を消そうとした、ただそれだけで彼は命を落とした。
力によって力に抗おうとした故に。
…だから、自分は誓ったのだ。
自分にある力。それは、ただ人を癒すために使う。決して他者を、それが何者であっても害するために使いはしないと。
叫んだエフェク。
しかしクーレは、静かに自分を見ていた。
その迷いもためらいもない目に、叫んだはずのエフェクが逆にうろたえる。
「…ではあなたは、力のもたらす全ての苦しみをただ甘んじて受け入れるとでも言うのですか。」
問いかけと共に遠くから瓦礫の崩れる音が響いた。
その中にかすかに混じって悲鳴が聞こえたのは、果たして現実のものだったのか。
「力によって苦しむ人がいる。あなたはただそこに寄り添ってそれを助けるだけなのですか。」
「それは…。」
「力が苦しみを生む、その大本から目を背け、ただ苦しむ人に手を伸ばし続けるだけなのですか。」
「それは…!」
「力の苦しみを他者に任せ、自分はただ守り続ける、それがあなたの選ぶ道なのですかっ!」
「それはっ!」
エフェクは叫び返そうとした。
だが、その先の言葉は出てこなかった。
「それは…。」
呟く声を、唸り声が掻き消す。
激しい叫びが上がり、再び大地が激しく震え出した。
振り返ったクーレが叫ぶ。
「―時間を使いすぎた。来なさい!」
そう言ってエフェクの手を掴んだ。
白手袋に、うっすらと赤い色が染みていく。それはクーレの肩を染めたものと同じ色だ。
エフェクは引かれるままに駆け出した。
うつむき、正面を見つめることなく。
…やがて、その足取りが止まる。
うつむいた視界にも違いははっきりと分かった。
夜の影が落ちた大地、そこを時折照らすように閃光が走る。辺りに響く神官たちの声。
そして全身で感じる、魔物の黒く莫大な魔力。
「―状況は!」
「駄目です、光の糸は全て千切られるだけです…相手が巨大すぎる!」
「ここにいる神官の数は!」
「自由に動けるのは十五人ほどですが…。」
「動けなくともよい、力を使える者は全てここに集めるのです!」
「何を―?」
論争の声はひどく遠くに聞こえた。
私はどうして、ここにいるのだろう。
あの時に誓った、力は使わないと誓ったはずなのに。
呆然と立ち尽くすエフェク。
その肩が、不意に叩かれた。
振り返った先にいたのはクーレだ。
やや青ざめた顔ながら、決して弱さを感じさせない眼差しが自分を見つめている。
「皆の力を合わせて、網を形成します。あなたも手伝いなさい。」
「私は…。」
「あなたの力もまた、必要なのです。」
「……。」
「忘れてはなりません。時には刃を振るうことが、人を守ることとなるのです。かつて天使が闇と戦ったように。」
エフェクは答えられずにいたが、それに構わずクーレは行ってしまった。
その確かな背中が、小さくなる。
手を伸ばそうと、追いかけようとしたエフェクはそこで立ち止まった。
かざした手を引く。
そして、反対の手に握られたままの杖を見つめる。
それから周囲を見回した。
そこには多くの神官が立っている。
ある者はその体を血に汚し、ある者は痛みに耐えるかのように顔を顰めて。
少し離れた方角からは今もなお悲鳴のようなものが聞こえた。
だが、それに振り返ろうとする神官の姿はなかった。
「聞けーっ!」
声が響き、エフェクははっとしてそちらの方を振り向く。
遠方。集った神官たちのちょうど正面に当たる場所に立っているのは神殿長の姿だ。
杖をかざし皆に届くよう大声を上げて呼びかけている。
「力の操作は我々が行う!君たちは私の頭上にその魔力を投影するように!」
エフェクは神殿長の頭上を見上げた。
まだ、そこには何もない。夜の闇が広がっているばかりだ。
周囲の神官らがそれぞれに杖をかざす。
エフェクは立ち尽くしたまま、その全てを見つめていた。
幾つもの杖が、魔物に向けてかざされる。騎士団の構える剣のように。
神殿長が魔物の方に振り返り杖をかざすのが見えた。
次の瞬間、その上方に眩い光の塊が生まれた。
周囲の神官たちも意識を集中する。
誰一人として、佇むエフェクの方を見ることさえない。
時折稲光のように逸れた魔力が弾けて空を照らす。
魔物が低い声で唸る。揺れる大地、しかし空の光は揺らぐことはない。
『あなたは何のために施療院に来たのですか』
その思いは変わっていない。あの時も、そして今も、苦しむ人を助けたかったから。ただそのためだった。
『守るために力は存在する』
毎日のように運びこまれる怪我人。力を振るい、そして傷を負って苦しむ人たち。
『あなたには力がある。その力を、使いなさい』
傷を癒し、病を抑え、患者を看護する毎日。それで十分だった。
『あなたは、何を―恐れているのですか』
旅立った師は亡くなった。あの気高く、力のあった師が―なぜ。
『力なき言葉になど、何をなすこともできないのです』
力こそが、苦しみを、悲劇をもたらしたというのに。
『それが、あなたがやらなければならないことなのですよ』
―その力を抑えるのもまた、力でしかないというのか。
エフェクは杖を構えた。
震える手、杖を精一杯握り込むことでそれを抑える。
頭上高くかざした先に意識を向ける。
腕を伝い、指先から先へ流れていく何か。
思わず目を閉じ、顔を背ける。
ためらいが、障壁となって力の流れを妨げている。
かつて、師と共に本神殿に勤めていた頃。
あの頃は彼の言葉に従って、この力を使うことにもためらいを感じていなかったというのに。
嫌悪感が込み上げる。
この感情は、何に基因しているというのか。
―あの時。
形見となった聖印を前にして、自分で誓った。
自分にある力。それは、ただ人を癒すために使う。決して他者を、それが何者であっても害するために使いはしないと。
六年間欠かすことのなかった祈り。
決して破ることのなかった誓い。
それは―。
…幼い顔が笑っていた。
毎週のように少年は現れていた。
病を癒すことはできなくとも、少女の苦痛を和らげることはできなくても、それでも彼は少女の元に通い続けていた。
何の力がなくても、ただ、その思いだけで。
かつて師に付き添っていた自分のように。
あの時。
師は、言っていた。
「悪しき力より皆を守るためだ。」
そう言ったのだ。
「光よ―。」
エフェクは閉ざしていた目を開いた。
震える手に力を込めて、杖を高く掲げて、確かな意志の下に叫んだ。
「光よ、我らに力を(イ・アセ・リト・ト・ウィツフ・エ)!」
その瞬間、集う光が瞬いたのをエフェクは見た。
一人の力程度でこの莫大な魔力の集積に大きな影響を与えるはずがないことは分かっている。
それでも、エフェクは何かが変わるのを感じた。
―何かが。
やがて、集った光がゆっくりと形を変えた。
広がり、薄くなり、やがて裂け目が生じて巨大でありながら強固な網と化す。
それは滑るように空を渡り、次の瞬間一気に魔物に覆い被さった。
魔物が悲鳴を上げる。苦悶の叫びと共に大地が轟音を上げて震える。
だが、網は魔物を縛った。どれほど暴れても、吼えても、決して切れることなくその身を束縛した。
光に裂かれた皮膚から黒い血が飛び散る。苦痛に満ちた声がこだまする。
…どれほど経ったのだろうか、ついに、魔物は抵抗をやめてその場にくず折れた。
大地が静寂を取り戻す。
耳鳴りが、完全に消えた。
全てを目を逸らすことなく見ていたエフェクは、ようやく詰めていた息を吐いた。
苦悶の叫びが耳に残っている。
苦痛に満ちた声、悲鳴にも似た叫び。
それをもたらしたのはこの力、この手でもあるのだ。
再び震え出した手が杖を取り落としそうになる。
エフェクは耐えかねたように座り込み、杖を抱き込んでうずくまった。
「―エフェク。」
そこに、声が振ってきた。
見上げた先にいたのは、また、クーレだった。
青ざめた顔。魔力の大半を使い果たし、立っているのも苦しいであろう様子がその顔色からも伺える。
だがクーレはしっかりと立ち、エフェクを見つめて言った。
「何をしているのです。我々の仕事は、これからですよ。」
「…え。」
小さく問い返したエフェクを睨むかのようにして、クーレはきっぱりと告げた。
「瓦礫の下には未だ助けを待つ多くの人たちがいます。彼らを助けることこそ、我らの仕事ですよ。」
「あ…。」
呆然と、その顔を見上げる。
クーレは厳しい目を向けていたが、不意に、その口元に一瞬だけ小さな微笑みが浮かんだ。
「…よく頑張りましたね。さあ、立ちなさい。まだあなたの力は必要とされているのですから。」
細く、骨ばった手が差し伸べられる。
エフェクはそれを手に取り、そして、立ち上がった。
「―はい。」
頭上彼方の夜空には闇が広がっている。
夜明けはまだ遠い。
この一晩で、いったい幾つもの命が失われたのだろうか。
突然に災害のように現れた魔物―一つの力によって。
まだ、手の震えは止まない。
吐き気にも似た嫌悪感は消えない。
―だけど。
何も終わっていない。そして、何も始まってもいない。
エフェクは、クーレの横に並ぶようにして、瓦礫の山へと歩き出した。
―end.
〈本誌には載らない秘密のあとがきのたぐいのおまけ〉
―連作、「Destination of Will」と「Redemption of Immaturity」はいかがでしたか?これにて物語の幕は下ります。
はい、どーも。毎度おなじみのいづみでございます。そして今回は、NF(京都大学十一月祭)用の特別原稿ということで二作品を合わせてのあとがきでお送りいたします。
…さて。いづみの作品をきちんと読んでいて下さる奇特…いやありがたーい(謝)方々ならお気づきのことと思います。この二作と、つい数ヶ月前に書かれた短編「Ring of Eternity」との関係に。ええその通りです。この二作、しっかりとリンクしております。
そう。秘密のあとがきということでワタクシはここで暴露をいたします(え)。今年度、復活したいづみは密かに新たなキャンペーンを企画しておりました。題して「連作となる話のみで今年は短編を仕上げようキャンペーン」…相変わらずダメダメなネーミングですがそこはお気になさらず(死)。まあそういったわけで今回の作品は前のアレとリンクしているのでした。いかがだったでしょうか。というか実際はまだリンクが続く予定です。いえ何せ年度単位のキャンペーン、執筆機会はあと最低一度はあるかと。つーわけで乞う御期待♪
とまあ裏事情はさておくとして(切)。本作の感想いきます。…久方ぶりの短編、しかもシリアスはなかなか難産でした。ついこないだまでははっちゃけた長編を一つ仕上げていたのでその反動が余計に大きかったというか、負担が倍増したというか(愚)。
では一作ずつ回顧でもしてみます。まずは「Destination of Will」。学祭用閲覧冊子に掲載の短編でございましたが…これはまたものすごーく中途半端な作品になっちゃいました(悔)。やはり最大3P限定の短編は、長編志向の私にはひじょーに厳しいかと。というわけで短く切り取ってバッドエンドで落としてみようかと思いましたが…蓋を開けてみりゃなんじゃこりゃ(爆)。前半で読み手を引っ張るよう努力をしたはいいが、こんなオチでは肩透かしもいいところです。―ああっ、ごめんなさい!石を投げないで下さいっ!(痛)…ということでたいへん反省いたしております。というかこれを閲覧冊子に載せていいのか。いづみの作風をシリアス寄りと誤解されるだけじゃなく(そもそも私の担当は『ライトなファンタジー』なんですってば)、読者にこの作者の作品を読む気を失くさせるような予感がしなくもない……ああ、愚かさの報いは結局自分に回るだけだからいいのか。よしオッケイ(違)。
…気を取り直して次!「Redemption of Immaturity」でございます。学祭用販売雑誌の『幻想組曲あと251号』に掲載された本作。こちらは何とかまともな短編…に仕上げられたのかなあ(疑)。やはりいづみにはダウナーな話は向いてないようです。所詮私はライトな人格、軽い話しか作れっこないのさ〜(壊)。…いや言い訳してても仕方ないのですが。話を通して見ると、内容をまとめきれなかった感が多少ありますね。もう少し書くべき内容を絞ってすっきりまとめるべきだったかと。…だから規定の10Pをオーバーするんだよ(悪)。―い、いや原稿としてはきちんと10Pに収めましたデスヨ?ただいつもの書き方だと13Pになってしまったのでそれを誤魔化すべく余白を削って一行当たりの字数も増やして行数を稼いだというだけのことでありまして…(汗)。いや、むしろそのおかげで例年より見やすいレイアウトになったという気がしなくもないし!結果オーライっ!(酷)…ゴメンナサイ、なるべく規定は守るようにします。だけど前作(RoE)だってやっぱりページ数を越えたから三段組みにして提出する羽目になってたんだよう…(泣)。まあそんな製本側の裏事情はさておき。とにかく無理やりまとめると微妙かつ冗長な作品だったということになりますね(断)。…あああどうしようもないじゃないか自分(悶)。
とまあ振り返ったらへこんで終わりました(沈)。ま、所詮いづみはこんなもんということです。…今回のあとがきは何かかなり低調でお送りしておりますが、これは単に作品の影響です。あの微妙にダウナーな空気と、更に作品の出来のイマイチさにそこはかとなく鬱が入ってきたというところで(じゃあ出すなよ)。
とまあほっとくと愚痴になりかねないのであとがきはこのへんで強制終了します!(勢)何はともあれこんなところまで読んでくれてまことにありがとうございました(感)。それではまた次の作品でお会いしましょう。ごきげんよう〜★
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