うぉ〜ず
おたく戦争
(不審部6人リレー)   第1章 天崎 充(1/6)


「ちっ、ミノフスキー粒子の散布濃度が高すぎる!?」
 プリッヂの中央で仁王立ちしていた男が、スクリーン上に表示されたデータにうめき声を上げた。
「これじゃあレーザーは使いモノになりませんねぇ。あーあ、今日も近接戦闘かぁ」
  先刻の男とは対照的に明るい声が、オペレータ席から上がる。その、戦況かんばしくない戦場では場違いな声がしゃくに障ったらしく、中央の男がそのオペレータに向かって怒鳴った。
「うるさいぞ、オギワラ少尉! ブリッヂでの私語はつつしめ!」
「へーい」
 ほかのブリッヂ要員が肩をすくませる中、オギワラ少尉と呼ばれたオペレータは、これまた軍隊にふさわしくない気の抜けた返事を返すと、頭の後ろで手を組んで、鼻歌を歌い出した。その態度が、さらに男を刺激し、男はツカツカとオペレータ席へ歩み寄った。
「おい、オギワ……」
「あ、そういえば、副長」
 くるっとイスごと振り向き、オギワラがわざとらしく言う。
「さっき艦長から副長宛てに呼び出しが入ってたんですけどね。いやあ、すっかり忘れてたなぁ」
「何だと? なぜ早くそれを知らせんのだ!」
 男――副長はまた怒鳴り声を上げると、ブリッヂ中央に戻っていった。
「オギワラ少尉、艦長につなげ!」
「へーい」
 オギワラが船のコンソールを何やら操作すると、スクリーンの左隅に、貧相なヒゲ面の男の顔が現れた。
「何? ああ、インゲンシュタイン君か。何の用?」
「ウィトゲンシュタインです、艦長。私に何かご用がおありなのでしょう?」
 ナチュラルに間違えられた名前を訂正しつつ、ウィトゲンシュタイン副長は、眠たげな顔の艦長にきいた。
「ああ、そーだった。あのさー、ショ糖を転化糖に分解する酵素の名前って、何つったっけ」
「……インベルターゼですか?」
「ああ、そうだ。思い出したよ。ありがとうな、インゲンシュタイン君」
「ウィトゲンシュタインです、艦長。まさかそれだけのために私を呼んだんですか?」
「もちろん、本題はこれからさ。ほら、今日の19:00から、こないだオギワラ君が言ってた面白いTVプログラムが始まるだろ? あれ何てて言ったっけ。スジニク番付?」
「筋肉番付ですよ、艦長」
 横からオギワラが訂正する。
「そう、それ。ビデオ録画しようと思ったら、ビデオデッキ壊れてんだよねー。つーわけで、生でアレ見るから、後はインゲンシュタイン君に任せた。そいじゃ」
 ふいに艦長の貧相面がスクリーンから消失した。
「何か相変わらず名前まちがえられてますねー、副長」
 オギワラの茶々入れを無視して、副長はブリッヂの中央に立ったまま、ぽつりとつぶやいた。
「19:00って……、作戦開始時刻なんだけどな……」
 限りなく士気の下がったブリッヂの中で、オギワラ少尉だけが気楽に口笛などふいていた。


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